北海道「花の島」礼文島の短い夏を路線バスで巡る シーズン到来!さいはての絶景と「海の恵み」

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道道を下り、上泊と高山の集落を散策。漁港に面した作業小屋を覗くと、もずくを塩樽に漬けていたおじいさんが招き入れてくれる。昆布漁に出たものの、今日はヤマセ(東風)が強くて収穫できず、代わりにもずくを採ってきたという。「食べてごらん」とひとつまみ差し出した。聞けば、良質の昆布を都内のデパートに直接納品しているそうで、どうやら昆布漁の達人だったのかもしれない。

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作業小屋近くの南高山バス停から、15時31分発のバスに乗る。バスは金田ノ岬の「あとい」の前を通過し、船泊漁港をかすめて、船泊の市街地へと進む。病院前のバス停で降りると、バスに先客として乗っていたアジア人の家族連れも一緒に下車した。たくさんの荷物を持っており、キャンプ場で一夜を過ごすようである。

キャンプ場を通り抜け、一周4・2キロメートルの久種湖のほとりの遊歩道を散策する。周囲はハンノキやイタヤカエデが茂る湿地帯で、春にはミズバショウの花が咲き誇る。東側の道道の歩道からは、湖面に映る〝逆さ礼文岳〟が見えるはずなのだが、先ほどまで輝いていた太陽が雲に隠れてしまい、残念ながら湖面は山を映してくれなかった。

海を望むさいはての岬の宿に泊まる

病院前のバス停から、17時39分発のスコトン行き最終バスに乗車する。白浜集落の先で、道道は急な上り坂になり、バスは岬に続く丘の上を走る。ほどなくスコトン停留所の待合小屋が見えるが、そこには停まらず、ぐんと道幅が狭くなった道を岬まで北上する。真っ白なオオハナウドの花に囲まれたレストハウスの駐車場で終点となった。

礼文島最北の地・スコトン岬。北緯45度27分51秒の断崖に立ち、黒褐色の岩礁が点々と続く先のトド島を見つめながら、晴れた日には見えるというかつての樺太、サハリンの島影を想像した。

スコトン岬(写真:『シニア バス旅のすすめ』より)

この岬の断崖の下に、まるで船小屋のようなたたずまいの民宿がある。その名も「民宿スコトン岬」。

今夜はこの宿の海側の部屋に泊まった。夕食の膳には昼にも食べたウニとボタンエビに加え、傷みやすいため産地でしか食べられないというホッケの刺身も並んだ。

さいはての日の出をひと目見ようと、翌朝、スマホのアラームを鳴らして4時に起きる。部屋のカーテンを開けてまだ暗い水平線に目を凝らすと、やがて太陽が顔を出し、海面をオレンジ色に染めていった。やがてどこからともなく小舟が1隻、また1隻。手足を起用に使い、昆布漁を始めた。どうやら昨日のヤマセは止んだらしい。

加藤 佳一 BJエディターズ編集長

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かとう よしかず

1963年東京都生まれ。東京写真専門学校卒業。1986年にバス専門誌『バスジャパン』を創刊。1993年から「BJハンドブックシリーズ」の刊行を続け、バスに関する図書を多数監修。著書に『つばめマークのバスが行く』『そうだったのか、都バス』(ともに交通新聞社新書)、『路線バス 終点の情景』(クラッセ)、『都バスで行く東京散歩』『一日乗車券で出かける東京バス散歩』『ローカル路線バス 終点への旅』(以上、洋泉社新書)などがある。

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