クラスター施設職員「2~3割がうつ症状」の悲惨 支援現場の医師が訴える医療者のメンタル危機

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まえだ・まさはる/1984年、久留米大学医学部卒業。2013年より現職。東日本大震災後、福島県被災地でのメンタルヘルスの分析、支援活動に携わる(写真:福島県立医科大学)  
医療従事者や自治体職員のメンタルヘルスが悪化している。コロナ対応に追われて過重労働が常態化し、うつ症状などに悩む人が増えている。
福島県立医科大学・災害こころの医学講座の主任教授を務める前田正治氏は、クラスター(集団感染)が発生した医療・介護施設の職員のメンタルヘルス・ケアを行う。前田教授に、医療従事者らのメンタル危機を防ぐための支援のあり方などについて話を聞いた。

――コロナ禍で、医療従事者にどのような心のストレスがかかっていますか。

医療従事者のうつ症状が強くなる原因は、過重労働による疲弊と、強く自分を責める感情にある。医療従事者は自分が感染する不安より、「(家族や友人などの)誰かに感染させてしまうのではないか」と自分を責める感情のほうが強い。身の周りの人が陽性者や濃厚接触者になった場合には、いっそう自分を責める感情が強くなる。

感染のリスクをゼロにはできない。だが、医療従事者は自分が感染すると社会的な制裁を受けるのではないかという不安も大きい。ある感染症病棟の看護師は、「記者会見で謝罪している自分の姿をよく思い浮かべます」と話していた。(他者に感染させるリスクへの不安から)誰にも会わなくなるなど、職場以外でも萎縮してしまう。

「火をつける」との脅しも

直接コロナ患者に接するスタッフはそれほど増やすことができず、一部の職員に負担がのしかかってしまいがちだ。現場のスタッフからは「まず何より休息がほしい」という声を聞くが、スタッフに十分な休息を与えるシフトを組むことが難しい。

こうした過重労働やストレスが、睡眠不足をもたらすこともある。コロナに対応するスタッフに最も多い訴えの一つが睡眠障害だ。

――クラスターが発生した施設では、具体的に職員の間でどんなメンタルの不調が見受けられるのでしょうか?

次々に職員が陽性になると、残った職員に負担が集中する。家族にも話すことができず、孤立しがちだ。クラスターが発生した施設の職員に対してストレスチェックを行うと、職員の2~3割に強いうつ症状が出ている。

私が支援に入ったクラスター発生施設の職員は、(周辺の)住民から「家に火をつける」と脅されるなどの嫌がらせを受け、深刻なうつ状態に陥ってしまった。感染症病棟で働く医療スタッフの不足や、医療機関がコロナ対応を避ける状況の背景には、社会的な偏見にさらされる不安や恐怖があるのではないか。

東洋経済プラスの連載「コロナ メンタル危機」で、この記事の続きが無料でお読みいただけます。連載では以下の記事も配信しています。

うつに不眠、「心の異変」相次ぐ医療現場の深刻実態

暗中模索の医療機関、コロナで不足する「職員ケア」

残業100時間超、極限に追い込まれる保健師

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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