認可保育園で「習い事に月謝2万円」続出のなぜ 幼保無償化で出没する「家計吸い上げ」ビジネス

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こんなふうに言うと、「児童福祉施設だから質は低くていいということ?」と思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。人格形成期の子どもの心身をのびやかに育む保育(教育を含む)の根本は、習い事にはありません。

習い事を行っていることが質の高さだと考えるのは大きな誤解です。習い事はあえて避けて、子どもの興味・関心や遊び込む集中力を大切にする質の高い保育を提供している園はたくさんあります。この時期は一人一人が尊重されて自己肯定感や主体性を育まれることが最も重要だからです。その根底には一人一人の子どもの自己実現、つまり福祉を第一とする理念があります。

児童福祉とは、「最低限のものを保障する」という意味ではなく、「一人一人にとっての幸せを追求する」という意味をもつものです。

なお、保護者の希望に応えて習い事を取り入れている園もふえていますが、児童福祉の制度理念を尊重し、別料金なしで行っているところのほうが今のところ多数です。まだ、児童福祉の理念は死んではいません。でも、このままでは、死んでしまう日がくるかもしれません。

ここで強調したいのは、児童福祉施設として位置づけられた認可保育園や幼保連携型認定こども園は、すべての子どもに分け隔てなく質の高い保育(教育)を行う責任を負っているということです。

家庭の事情で区分され、子ども自身の希望とは関係なく「はーい。○○ちゃんは申し込んでないから、こっちのクラスで遊んでいてね」と分けられてしまうような保育は、本来の理念に反しています。そのように子どもの主体的な選択を軽んじて疎外する保育は、子どもにどのような教訓を与えているか考えてみる必要があります。もちろん、全員から月額2万円、年額24万円にもなる別料金を集めることがよいはずもありません。

「幼児教育無償化」が触発したもの

そもそも、なぜこんなことが今起きているのでしょうか。ひとつには、前述のような幼保一体化での理念の整理不足がありました。もうひとつは、2019年10月からの「幼児教育無償化」で生じた家計のゆとりを狙うビジネスの活性化があります。そこに、児童福祉施設までもが参入しようとしているのです。

その「幼児教育無償化」は、2017年の衆議院議員選挙で与党の選挙公約として掲げられ、当初は自治体も反対したほどの唐突な施策でした。

詳しくは過去の記事「保育無償化が「誰得か」よくわからない現実」で書きましたが、国や自治体の財政が窮迫する今、子どもが直接受けられる利益(保育の質の向上)を後回しにして財源が流れてしまったことは悔やまれてなりません。

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