SNSで知識を得ることは「学び」ではない

――田中先生は、SNSでさまざまな情報発信をされています。まずはSNSの利用歴を教えてください。

「Twitterは若手、Facebookは中高年とメインの利用者層が異なる。Clubhouseはこの両者がうまくつながれる唯一の場になっている」(田中氏)
(写真:田中氏提供)

最初に利用したSNSはmixiです。ニコニコ生放送(以下、ニコ生)では約5000回、料理番組を配信してきました。今も続けているものでは、Twitter歴9年、Facebook歴8年。最近はClubhouseでの発信がメインで、ほぼ毎日数時間ほど主に「学級経営」について話をしています。2月から朝・夕方と1日2回発信しているので、もう100回は超えていますね。いずれも炎上したことはありません。

――教員がSNSを活用するメリットについてどうお考えですか。

かつて教員の学びの場は、教育雑誌や書籍を読むこと、セミナーや教員サークルなどへの参加が主流でした。それがSNSの台頭で、日常的に教育の情報が得られるようになりました。全国の教員とつながり、さまざまな実践もリアルタイムで知ることができる。その日考えたことを広くアウトプットし、即座にフィードバックをもらうことも可能になりました。時間と場所を問わず学べるようなったことが大きなメリットだと思います。

田中先生は、2012年からTwitterを利用
(写真:田中氏提供)

一方で、学びがインスタントになりやすい。大量の情報を容易に入手できるようになったことで、「広く・浅く」学ぶ人が増えたように感じます。知識を得ることを「学び」と捉える人が増えた。サークル活動もオンライン化したことで全国から参加しやすくなった半面、休みやすくもあるので継続して参加する人は限られるようになりました。SNSは深掘りの「きっかけ」と捉え、共感できる実践を見つけたら、次は本やセミナー、サークルなどで学びを深めていくことが大切だと思います。

僕はリアルの場で知り合った教員仲間と、TwitterとFacebookで鍵を付けたクローズドな状態での交流もしています。日常的なやり取りはもちろん、実践発表などもやっていてすごく楽しいです。クローズドな場を上手に使うとより深い学びが得られますよ。

――炎上しやすいSNSは圧倒的にTwitterといわれています。教員がTwitterを使うに当たって注意したいことは何でしょうか。

Twitterは匿名で利用する教員がほとんどで、かなり際どい発信や「アウト!」と感じる発信も目にします。メディアリテラシーが重要になりますが、炎上につながりそうだと感じる教員のタイプは主に3つです。

①「コンプライアンス違反」をしてしまう教員
②「ウソ」をついてしまう教員
③ 安易に「逆張り」してしまう教員

まず多いのが、①のタイプ。例えば毎年3月ごろになると「来年度は6年生を受け持ちます!」と張り切ってつぶやく人がいますが、これは人事情報の漏洩。守秘義務違反に抵触する発信はアウトです。

そのほか児童生徒の写真を掲載してしまう教員や、「テストでこんな面白い解答がありました」「こんなすてきな作品を作りました」と、児童生徒のテストやノート、図工作品などを、承諾を得ずにさらしてしまう教員も。肖像権や著作権のことをよくわかっていないのでしょう。

教員であることを明かしながらこうした発信を行うのは、公務員に義務づけられている「信用失墜行為の禁止」に抵触するため処分の対象になりかねません。

②は、例えば「GIGAスクール構想でうちの自治体ではこんなことをやっています!」など事実ではないことを発言する教員。なぜすぐばれるウソをつぶやくのか謎ですが、注目されたいのか、自分や物事を大きく見せようと話を盛りすぎる教員がいます。

学校の常識を安易に否定するのが、③です。例えば「宿題なんて意味がない」といった発言。ある程度経験のある教員が語るならよいのですが、若手は「家庭学習の習慣化」のような代替案を提示するわけでもなく安易に逆張りに走りがちなので、説得力がなく突っ込まれやすいと感じます。

「身バレ」はするものだと心得よ

――匿名だから「何を発言してもよい場」と錯覚してしまうのでしょうか。

そうかもしれませんが、子どもたちのそばに立つ教員が言いたい放題という状況はどうなのかなと。昨年、カナダの首相が「言論の自由は保障されるべきである一方、不必要に他者を傷つけるべきではない」といったことを発言していました。日本も思想や言論の自由は憲法で保障されており、公務員もSNSを禁止されるべきではありませんが、人を不快にさせる発言や他人の権利を侵害する発信はいかがなものでしょうか。しっかりと考えたいものです。

匿名であっても公立教員の信用失墜行為は注目を浴びやすく、炎上するとあっさり特定されます。最近も「身バレ」してSNSでの発言を理由に処分を受け、ニュースになった教員がいました。

また、ネット上での炎上がなくても、身バレでトラブルになることもあります。僕はニコ生では「かりあげ店長」という名前で配信していて、教育情報も一切発信していなかったのですが、なぜかある時から何者かが学校に「田中の配信をやめさせろ」と電話をかけてくるようになりました。ただの料理番組なので管理職も理解してくれていましたが、あまりにしつこく、学校に迷惑をかけられないと思ってアカウントを消去することにしました。

ニコ生では楽しく料理の生配信をしていただけなのに、アカウント消去に追い込まれた
(写真:田中氏提供)

――現在、田中先生はTwitterをはじめ実名でSNSを利用されています。教員は実名でのSNS発信にシフトしていくべきだと思いますか。

実は、Twitterに関しては始めた時が公務員だったこともあり発信には慎重になっていて、3年前まで匿名利用で教員としての発信もしていませんでした。でも、Twitterを利用する教員は20代~30代と若手が多く、経験のある教員が実名で実践を伝えていくことも大事ではないかと思うようになり、自分も経験を重ねたので実名を解禁しました。仲間も賛同してくれて、少しずつ実名で発信するベテラン教員が増えつつあります。ちなみに、実名のほうが炎上するリスクも低いと感じています。

一方、ネットリテラシーに自信がない若手教員はTwitterをやらないほうがいいかもしれません。何か問題になって処分され、未来を閉ざしてはもったいない。もしやるなら、若いうちは保護者や学校関係者に見つからないようにやってほしい。その際も、教員としての信用失墜行為に抵触しないよう注意し、身バレ覚悟で情報発信してほしいと思います。

「#教師のバトン」騒動はある意味「健全利用」

――Twitterといえば、「#教師のバトン」は文部科学省の当初の意図とは違う形で盛り上がりましたが、どうご覧になりましたか。

結果的に教員の働き方改革の「再手術」が始まり、結果オーライかなと。文科省が教員不足問題の調査に乗り出すようですが、今回の炎上がなければ行われなかったでしょう。数えきれないほどの悲痛なバトンが転がり、誰も受け取ってくれる人がいない。そんなイメージが文科省に伝わったのかもしれません。

(イラスト:田中氏提供)

トップダウンでくるものに辟易している若手ばかりのTwitterですから、不平不満があふれるのはある意味「健全なTwitter利用」の状態だと感じました。若手教員が抱えるしんどさを文科省がどう受け取り、現場の声に耳を傾け改善に動いてくれるか、皆が注目しています。

しかし、職員室を見渡しても、Twitterを利用している教員は1割くらいでしょうか。多くの先生方は「教師のバトン? 何それ?」かもしれません。文科省も内心では「匿名の先生がわいわいやっているだけじゃないの」としか捉えていない可能性も。ポーズにならず、具体的な改善のアイデアが形になるとうれしいです。

一方で、「しんどい」と思っている若手教員がTwitter上で集まって盛り上がり、「お先に辞めました」「私も辞めます」と連鎖的に教育現場を去っていく流れをよく見聞きします。きっと中には職場で真剣に「しんどい」と相談したら助けてもらえた人もいたはず。若手教員の方々には、SNSに逃げ込む前に、まずは目の前の仕事やリアルな人間関係にしっかりと向き合ってほしいと思います。

――SNS上には詐欺のような危険な「わな」も潜んでいますが、見極めのコツはありますか。

見極めは難しいですね。とりあえず危うい発信をしているアカウントとは距離をとりましょう。安易にオンラインサロンに誘う人や、たくさんDMを送ってくる人にも注意。Clubhouseも情報商材やスピリチュアル系の人たちが増えたので、囲い込まれないよう気をつけること。自分のファンを増やそうと囲い込みを目的に近づいてくる教員もいます。やたら親切を装って初任者向けにSNS発信している教員などには注意したほうがいいですね。

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)
(写真:田中氏提供)

(文:編集チーム 佐藤ちひろ、注記のない写真はiStock)