次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 研究室では一部成果も、実用化までは茨の道

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――リチウムイオン電池の時間軸に当てはめると、全固体電池の材料開発はどのあたりにあるのでしょうか?

リチウムイオン電池でいえば吉野さんたちのプロジェクトが成果が出た1985年くらいのレベルまでは来ているのかな、と。当時の時間軸よりも開発が速く進むとすれば5年以内には実用化できるだろう。

――中国のNIOは近いうちに固体電池を搭載し飛躍的に性能が向上したEVを出すと言っています。

航続距離を延ばすなら電池を多く積めばいい。発想の転換をすれば基準はいくらでも変わる。それに、固体といっても、液体から固体の間にいろんなレベルがあるので、その中間状態の電池を含めて固体と呼ぶこともできる。デバイス側、EVの性能要求を満たすならそういう電池もアリだろう。

――全固体電池の実用化に向けては、電極と電解質をどう接合するかが難問といわれます。

研究室レベルの電池の動作ではあまり問題になっていない。だが、実用化に当たっては大きな問題だと認識している。結局、電極と電解質の境界面、界面の問題だ。電池の電気化学反応は界面で起こるので、まず電極と電解質をきちんと接合させる必要がある。そのうえで、界面で高速に反応させなければならない、という2つ課題がある。

20年代後半に市場の主流を目指す

われわれ基礎研究者が注目しているのは、接合した後、いかにそこを高速でイオンを動かすか。電極表面に別の物質をコートするなどして、電極と電解質の界面でリチウムイオンを高速で動かすことで「解決できるだろう」と主張している。

もう1つ、界面の接合をいかにうまくとるか、という工学的な課題がある。これはなかなか難しい。われわれ基礎研究者は「柔らかい材料を使って押さえつけたらいけるだろう」と考える。硫化物の場合、幸い柔らかいので少しの圧力でもうまく接合できる。ただ、工学の研究者は実際の製品を作る場合や、何十年も使い続ける際に課題が生じるので、「そんなにうまくいくわけがない。何とかしてくれ」と言う。

完全に問題を解決するのは難しいが、電極と電解質の材料の最適な組み合わせによって一定程度は解決していけると考えている。

――NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の全固体電池のプロジェクトでは第1世代の全固体電池が2020年代後半から車載用蓄電池市場で主流となることを想定しています。開発の現状からすると、市場で主流になるにはまだまだ時間がかかるのではないでしょうか?

それはNEDOに聞いていただきたいが、スケジュールどおり粛々と進んでいる。目標は変わっていない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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