ほけんの窓口、伊藤忠の出資仰いだ舞台裏 「中立」が売りの保険ショップ最大手を巡る厳しい環境

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伊藤忠は推定20億~30億円で、ほけんの窓口を持分法適用会社に収めた

事をより複雑にするのが、譲渡制限がかかっているとはいえ、今野氏がいまだに、ほけんの窓口の株式の推定15%程度を保有する、大株主の地位にとどまっていることだ。

今野氏が株式上場を標榜し、非上場企業には珍しく、個人やファンドなど約160名もの株主を作り出していたことも、会社にとっては問題だ。ファンドなど安定株主とはいい難い株主を多数抱えるのは、潜在的な不安要素であることは間違いない。

昨年10月には住友生命が増資を引き受け、今野氏などに継ぐ第三位株主になってもらったことも、株の希薄化で今野氏の保有比率を下げたいという、ほけんの窓口側の株主対策がなかったとはいえない。

有望市場に手を付けたかった伊藤忠

 伊藤忠は今回、株をどこから購入したか、重く口を閉ざすが、いずれにしても、上場企業の信用力をもって、潜在的な経営上のリスクを減殺することができる。今野氏時代の経営から体制を一新、株式公開が遠のいた今、上場によるキャピタルゲインを狙っていた既存の株主も、高い値で引き取ってもらえるなら、売却に応じるメリットはある。今回の伊藤忠の推定購入額20億~30億円から推測すると、1株純資産を上回る価格で引き取った公算が大きい。

今後をにらむと、今野氏の株式保有比率を引き下げたいという文脈でいえば、「伊藤忠が今度は増資でさらに自らの持株比率を上げるのではないか」という見方も、他の大手来店型ショップから出ている。伊藤忠が市場参入に本気なら、そのシナリオも十分考えられよう。ほけんの窓口の弱体化を、鵜の目鷹の目で狙っていた別のライバル会社からは、伊藤忠の資本参加でこのシナリオが狂った、という声さえ挙がっている。

もともと伊藤忠とほけんの窓口とはビジネス関係があり、その中で「自然と両社の思惑が一致し、今回の関係に発展した」と関係者は口を揃える。もちろん伊藤忠にとって、来店型保険ショップは長期的に伸びる有望市場であり、いずれ進出したいという意向を持っていたのも事実だろう。それでも、伊藤忠のグループ関係会社との協業をどう進めるか、役員など伊藤忠からの人材派遣をどうするかは未定だ。

両社の協議はここ数カ月ではなく、1年近い間、潜行して進められていたと見られる。大型乗り合い保険代理店への規制、前社長退任によるイメージ悪化、みつばち保険グループとの競争激化など、厳しくなる一方だった、ほけんの窓口を巡る環境。手を差し伸べた伊藤忠との提携で、来店型保険ショップ最大手の行方がどうなるか。その動向から目が離せない。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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