頭のいい人とさほどでもない人を分ける決定打 大切なのは化学反応、抽象化する頭の使い方だ

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そのあとで、今度はこの骨組みの情報に、私たちの身近なデータを肉付けしていくのが具体化という作業です。例えば、抽象的な「トップ」という表現を、「社長」あるいは具体的な固有名詞の「○○代表取締役」に置き換えたり、「あやふやな情報」の部分に具体的な情報の内容を当てはめます。もちろん、もっと具体的なデータを加えてもいいでしょう。

こうすることで、戦国時代のエピソードが現代の教訓となるわけです。

歴史の本を読んで現代に生かそうというとき、私たちは意識するしないにかかわらず、こうした作業をしているのです。抽象化では、固有名詞を普通名詞に変え、細かいデータの部分をカットしたのち、普遍性のあるメッセージだけの骨組みにします。具体化では、逆に普通名詞を固有名詞に変え、具体的なデータを当てはめていくということをしていくわけです。

歴史を勉強していくときに、織田信長がいつどうした、豊臣秀吉が何をしたという事実を頭に入れるだけでは、それは単なる知識にすぎません。そこからは、自分の悩みに対する示唆は得られないのです。

歴史を単なる知識に終わらせるのではなく、そこから何かを汲み取ろうとしている人は、無意識のうちに先ほどのような頭の使い方を行っています。そして、それを自分のことに置き換えたうえで、例えば「あの豊臣秀吉も自分と同じようなところで悩んでいたり工夫をしたりしていたのだろう」と共感を覚えたり教訓にしたりします。

これは実は、抽象化した情報を、具体化させたり自分に置き換えたりする工夫をしていることを意味しています。

異分野に転換させる頭の使い方を意識する

このように、考える力を高めていくには、「具体」と「抽象」の双方向のトレーニングが大事です。これは、たとえるとジュースの濃縮と還元に当たります。

「具体→抽象」というのは、絞ったジュースをいったん濃縮すること。そして、「抽象→具体」というのは、また水分で薄めて還元することに当たります。この2つの作業を繰り返すことが、思考を高めていくには欠かせないのです。

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世の中のニュースを自分の身近な世界に当てはめたり、自分に引きつけて考えるという行為は、こうしたことを頭の中で行っているはずです。それを無意識の習慣にできるところまで徹底できると大きな武器になります。

もちろん、同じように抽象から具体に進めて理解するのでも、経済学の抽象的な理論を経済や経営という同じ分野の具体的な問題に当てはめるだけでなく、もうワンステップ展開して難易度を上げ、経済学以外の異分野に転換させる頭の使い方を意識してみるといいトレーニングになると思います。

「具体」と「抽象」の双方向のトレーニングが身についてくると、どんな分野の情報が入ってきても、ほかに転換して応用できるようになります。

柳川 範之 東京大学経済学部教授

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やながわ のりゆき / Noriyuki Yanagawa

1963年生まれ。東京大学経済学部教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。現在は契約理論や金融関連の研究を行うかたわら、自身の体験をもとに、おもに若い人たちに向けて学問の面白さを伝えている。主な著書に『法と企業行動の経済分析』(第50回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社)など。

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