ニトリ、自信満々の「島忠統合」に消えない懸念 アパレルに飲食店、多角化の明暗占う試金石

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3月中旬、東京・足立区の「ニトリ梅島ショッピングセンター」敷地内に、ニトリ子会社が試験展開する飲食店「ニトリダイニング みんなのグリル」が開業した。看板メニューのチキンステーキは税込み500円。お手頃価格で主にニトリを訪れたファミリー層の開拓を狙う。4月中に相模原にも2店目を開き、事業収益化の可能性を検討する。

「ニトリダイニング みんなのグリル」の看板メニューはチキンステーキやチキングラタン。お手頃価格を売りにする(写真は同社ウェブサイトより)

ニトリは2019年から、中高年女性をターゲットとしたアパレル業態「N+(エヌプラス)」も始動した。現在ニトリ店内への出店も含め17店を展開し、早期に100店体制を目指す。

家具以外への事業多角化にアクセルを踏む現状からは、ニトリがかねて掲げてきた「2032年に3000店、売上高3兆円」の目標達成への焦りも垣間見える。

主戦場の国内家具市場は、少子高齢化と新設住宅着工件数の減少の影響をもろに受ける。47都道府県に進出を果たして10年が経ち、出店拡大余地は限られてきた。海外も2014年に進出した中国で店舗フォーマットの見直しや人材育成に時間を要し、当初もくろんだスピードで拡大できていない。

経験乏しい大型買収

国内の既存店舗の集客力を活用しつつ業態の幅を広げられれば、一段の売り上げ成長が見込める。ただ新業態は始めたばかり。他社からは「アパレルは売り場の見せ方も商品の品質も未熟。脅威とはみていない」(大手衣料品チェーン社員)と厳しい見方も出る。早期に確実な収益源に育てるには、今後も島忠のような異業種企業のM&Aが有力な選択肢となる。

ニトリは過去に家具メーカーなどの小規模なM&Aは行ってきたが、小売企業の買収は島忠が初めて。社員約1600人(前期末時点)を抱える島忠とどこまで相乗効果を出せるかは不透明な部分が大きい。

ニトリの白井俊之社長は「円滑な統合を実現するため、9つの分科会を設置して店舗開発、商品、物流などの課題の整理・対策を進めている」と強調。似鳥会長も島忠の経営陣と毎週意見を交換しているといい、「素直で今のところ何でも言われたとおりにやる。ニトリ方式で生まれ変わらせる」と自信をのぞかせる。

だが売り場づくりなどの点で店舗の裁量が大きい島忠は、社風も業務プロセスもニトリとは異なる。本部主導でチェーンストア方式を徹底するニトリには、似鳥会長のトップダウン経営が浸透。2~3年ごとの異動で社員にさまざまな部門を経験させる教育方針も独特だ。小売り大手の幹部は「現場との分断が生まれないよう『似鳥カラー』を根付かせられるか」と注視する。

単に「ニトリ化」させるだけでなく、島忠の社員が持つホームセンターの知見をうまく取り込めなければ、統合効果は十分には生まれない。その行方が、今後の業容拡大の命運をも握る。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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