台湾新幹線の製造価格「3倍も高い」カラクリ 独自取材で判明、日本と違う台湾のコスト構造

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台湾の高速鉄道はもともと独仏方式で計画がスタートし、その後日本連合が逆転受注したという複雑な事情がある。そのため、独仏方式の基準があちこちで使われており、新幹線の車両をそのまま持ち込むことができない。

700Tの開発に際しては、700系からさまざまな仕様変更がなされた。だが、新型車両の開発に際しては、製造コストを減らすために、東海道新幹線の当時の主力車両だったN700系の仕様をそのまま活用する部分が増えた。

日本の700系と台湾の700Tはさまざまな部分が異なり、ハンドルの形状など運転台の機器も違う。上は700系と同型の「ドクターイエロー」、下が700Tシミュレーターの運転台(記者撮影)

たとえば、700系やN700系に設置されている乗務員室の扉は、衝突耐性を悪化させるとして700Tには設置されなかった。しかし、新幹線システムは衝突リスクがないことを高鉄側に理解され、新型車両では設置が認められることになった。逆に新幹線に設置されていない駐車ブレーキは独仏基準に合わせて700Tに搭載されたが、700Tにおける使用実績がないことから新型車両では搭載不要となった。

しかし、そのほかの大半の部分は台湾側の仕様に合わせることなった。たとえば客室内の火災対策一つとっても、新型車両に用いられる素材はすべて燃焼試験を行い、当局にデータを提出することが求められる。煙検知器も設置することになったが、配線一つとっても、1カ所を変えると、ほかの部分も変更する必要が出てくる。運転台の機器配置も日本のものとはやや違う。

こうした仕様変更を一つひとつ積み重ねた結果、「新しい車両を開発するのと同じくらいの費用になった」(関係者)。

仕様策定費上乗せで高額に

メーカーは新型車両の仕様変更費用を製造価格に上乗せする。一方で、日本では新型新幹線の仕様策定はJR自身が行っているので、メーカーの負担ではない。新幹線となるとJRが投じる開発費用は巨額に及ぶ。JR東日本は約100億円を投じて時速360kmでの営業運転を目指す試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」を開発し、試験走行で得たノウハウが次世代新幹線の仕様決定に活かされる。JR東海も愛知県小牧市に約73ヘクタールの敷地を持つ研究施設を建設し、高速運転や安全輸送にかかわる研究を続けている。これらが新型新幹線の仕様策定につながるわけだ。

このように日本の新幹線ではメーカーの製造費用に反映されない仕様策定費用が、台湾では丸ごと製造費用に上乗せされる。しかも、今回高鉄が導入するのはわずか8編成。仕様策定費用を編成で按分するため、1編成当たりの費用負担も大きくなる。

車両に使われる部品は、日本ではJRが手配してメーカーに支給して組み立ててもらう。JRは部品メーカーとの長年の取引慣行やスケールメリットを生かして割安で調達できるが、メーカーが台湾の新型車両向けに調達する部品は、調達数が少ないため割高になってしまうケースもある。

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