ボルボが2030年全車EV化に挑戦できる納得の訳 小回りのよさや吉利との関係強化を活かす

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これらに加えて既存のパワートレイン事業を新会社に統合、ここで次世代ハイブリッド用のパワートレイン開発が行われる。ちなみに、現在ボルボで内燃機関の開発を行っているエンジニアはこの新会社に移籍となる。

ジーリーホールディングには吉利汽車(ジーリー)、ボルボ、LYNK&CO(リンク・アンド・コー)、ポールスター、ロンドンタクシー、さらにはプロトン、ロータス、スマートなどさまざまなブランドを持つ。ボルボはEV専門ブランドになるが、グループとしてはエンジンの需要はまだまだある。しかし、長期的に見ると「内燃機関には明るい未来がない」という判断から、集中しながら開発を行う方針だ。さらに吉利汽車とダイムラーは昨年提携しており、そのシナジー効果もあるはずだ。

ちなみに1年前、「吉利汽車とボルボが合併協議」というニュースが流れたが、なぜ合併ではなくそれぞれ存続の道を選んだのだろうか?

ベルギー・ヘントでの製造の様子(写真:ボルボ)

ボルボは吉利と対等に交渉

恐らく当初はグローバル競争で生き残るためには、「1つの会社として運営したほうがいい」という戦略だったはず。ただ、議論を進めていくと「ブランドの考え方、製品のポリシーを貫くには、合併がすべてではなく分かれていたほうがいい」、「事業を分離させながら協力関係の強化で、より多くの利益を得られる」という考えに変化したようだ。

今回の決定にボルボのホーカン・サムエルソンCEOは「強力なコンビネーションを実現し、両社をより強固なものにするための最善の方法」、吉利汽車の安聡慧社長は「今回の協力関係の深化は、重要な戦略的考慮事項と長期的な思考を共同で発展させた結果です」と語っている。

ここで筆者が感心したのは、販売台数や会社規模では吉利汽車に飲み込まれてしまいそうなボルボが対等に交渉していたことだ。そこには歴史やブランド力も大きく作用していると思う。ボルボは「ブランド/企業ポリシーを守る」というところに関しては、ほかの自動車メーカーよりも強い。それは、これまでルノーとの合併のご破算やフォード傘下時代に自分たちの思いどおりにならない苦労を経験してきたからこそ、こだわる部分なのだろう。

山本 シンヤ 自動車研究家

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やまもと しんや / Shinya Yamamoto

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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