「シナリオにない巨大災害」乗り切る防災技術  東日本大震災から10年で進化したテクノロジー

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ただ、SNSは、情報が増えれば増えるほど、そこから必要な情報を抜き出すのが難しくなってきます。さらに、一般の人による投稿ということもあり、誤情報やデマも交じっています。そのため膨大な情報を一つひとつ精査し、真偽を確かめて必要な情報だけを抜き出し、それを基に災害対応をするのは非常に難しいことでした。

しかし、そこに大きな変革が起こりました。ここ数年のAI(人工知能)技術の飛躍的な発展です。情報の精査や真偽の確認といった、これまでは時間や労力がかかって難しかったことが迅速に行えるようになりました。とくにこの1、2年で、ようやく自治体がそれを災害時に活用して迅速な対応にあたれるようになってきました。

SNS情報から河川の氾濫を把握

実例として1つ挙げると、昨年夏に九州で起こった「令和2年7月豪雨」で被害にあった大分県では、気象庁の発表情報や現場の河川管理担当者からの報告ではわからなかったことが、SNSからの情報によりリアルタイムに把握できるようになったのです。

通常、気象庁などから発表される河川の氾濫や水位情報は、基本的に一級河川のものだけです。ところが、一級河川は堤防などの対策がしっかりしているところが多いので実際に氾濫することはあまりなく、その支流の河川のほうが氾濫しやすいのです。

このときの大分県の場合、2本の河川が距離を置いて並行して流れていて、1本の河川に関するSNSの投稿がほとんど上がってきていなかったのに対し、もう1本については数多くの氾濫に関する投稿が上がってきていました。

その情報を早めにキャッチしたことで、その河川のほうに集中して迅速に対応できたのです。実際、投稿があまりなかったもう一方の河川では、被害がほとんどありませんでした。このような例もあり、自治体での災害時におけるSNS活用のニーズが高まっており、実際にすでに取り組んでいる自治体が増えています。

また、SNSの情報に限らず、AIを活用してさまざまな種類のデータを瞬時に解析し、それを基にした情報発信が可能になりました。気象データや交通データ、人流データ、町中や道路に設置されたカメラ、IoTセンサーといったものから得られる膨大な情報、いわゆるビッグデータの解析も災害対応に活用されています。

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