この10年で「3つのこと」を諦めた日本の盲点 社会学者の開沼博が考える日本が変わらない訳

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この「変わらなさ」の正体は、「『変わるべきだ!変わるはずだ!』と唱えてさえいれば変わるに違いない」という幻想が、絶対的に「変わらない」強固さをもっているということ。これが、あの3.11直後の当時から明らかだったわけです。

事実を見る、現場を見る。それを怠り、見たいものを見て、聞きたいことを聞き、一方的に断罪・糾弾できる敵・悲劇を見つけてはそこに殺到する。個別具体的な議論はここではしませんが、そういった態度が蔓延(はびこ)る中で先に述べたような、10年前に解決すべきとされた課題がほとんど温存されていまに至っているわけです。

3.11前後で大きく「変わった」こと

――現実的に見て、3.11の前後で大きく変わったことが「防災」ではないかと思われますが、今後30年間の南海トラフ地震の発生確率が80%とも言われる中、地震に対する備えは以前よりも強化されたと言えるでしょうか。耐震基準を満たす建物の割合は高まっていますが、防災についてなんらかの盲点が存在するでしょうか。

おっしゃるとおり。その点では、一定の変化と盲点の両方が存在します。変化したのは、ハード面はもちろん、ソフト面、ガバナンスの観点ではいろいろありますね。例えば、災害対応を見ても、災害対策基本法が細かくアップデートされてきて、それが断続的に発生する地震・台風等への対処を円滑にしている側面があるのは明らかです。

開沼博(かいぬまひろし)/1984年福島県いわき市生まれ。立命館大学衣笠総合研究機構准教授。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。専攻は社会学。 著書に、毎日出版文化賞、エネルギーフォーラム特別賞を受賞した『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』のほか、『はじめての福島学』『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』など著作多数(写真:PHP提供)

ですが、これはやはり実際にその現場で尽力する方たちの経験・知見があってこそ進んできた変化であり、日本社会の危機対応力が根底から変わったわけではない。コロナ禍での混乱を見てどうでしょう。南海トラフ巨大地震、首都直下地震が今後ほぼ確実に来ることへのリアリティをどれだけの人が抱えているか。

――多少は意識していても、具体的な議論・行動に落とし込まれてはいないでしょうね。

そうですね。ここではじめの問いに戻りましょう。「3.11前後での日本における最も大きな変化」は何か。これは、3.11から10年を機に刊行した『日本の盲点』に詳述しましたが、日本の社会意識がもつより広い意味での盲点が明確になったということでしょう。具体的に言えば、「中道」「知識」「外部」、この3つを追求しコミットすることを諦めたということです。

「中道」とは、仏教用語としての意味に立ち戻れば、単に間をとったり中立を装ったりすることではなく、極端同士の対立構造自体から超越することを指します。現在、さまざまな言説が極端に偏り、単純化され、対立を前提に設えられている状況がある。

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