菅首相の「宣言延長」を後押ししたある危機感 小池都知事主導の宣言解除というトラウマ

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そうした混乱の中、4日の参院予算委では菅首相の期限再延長に対する厳しい質疑はほとんど出なかった。質問者が自民、公明両党や、政権寄りの維新が中心だったからで、最後の共産党の短時間の追及だけが目立った。こうした審議日程も3日の首相発言につながったとのうがった見方も出る。

ただ3日夜、『週刊文春』は政権を追撃する「三の矢」を放った。NTTの澤田純社長やNTTデータの幹部らが、総務省の谷脇康彦総務審議官と同省出身で前内閣広報官の山田真貴子氏らに対して、高額な接待を行っていたことを暴露したのだ。

文春報道で判明したNTTの高額接待

この報道について、NTTは「会食は事実」と回答。谷脇氏も事実関係を認めたことで、政府は改めて総務省における調査開始を余儀なくされた。『週刊文春』によると、NTTグループの関連会社が運営する「迎賓館」とも呼ばれるレストランで、澤田氏らが総額約91万2000円分の接待を複数回行っていたというもの。

NTTは事業計画などで総務省から許認可を受けており、総務省幹部がNTTから接待を受ければ、国家公務員倫理規程に抵触する可能性がある。

菅首相の長男・正剛氏が部長職を務めていた東北新社から違法接待を受けたとして、谷脇氏は減給処分、山田氏は体調不良を理由に内閣広報官を辞職した。ただ、今回の『週刊文春』報道を受けて、永田町では「山田氏の突然の入院による広報官辞職の理由がわかった」との声も広がった。

総務省の再調査で違法接待の事実が認められれば、谷脇氏のさらなる処分も避けられず、菅首相の天領とされる総務省の混乱は「収拾不能となる」(自民幹部)可能性は大きい。その場合、菅首相の霞が関への指導力も低下しかねない。

菅首相にとって5日の記者会見から、緊急事態宣言の解除や五輪聖火リレーの可否を決める25日までの3週間は政治的にも極めて重要となる。現状では「『進むも地獄、退くも地獄』で政権の命運がかかる勝負の分かれ目」(自民長老)となりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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