ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際 過酷な労働環境のなか子どもを守れるのか

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前回の記事で明らかにしたように、公定価格が最も高い東京23区を例に考えてみよう。内閣府の内部資料から、2020年度は公定価格(基本分)の人件費は約443万円だということがわかった。そこに、国による全保育士対象の処遇改善加算Ⅰとキャリアに応じた処遇改善加算Ⅱ、東京都独自の処遇改善加算を加えていく。

すると想定される年間賃金は、処遇改善がまったくつかなくても年間で約443万円、処遇改善加算Ⅰと都独自の処遇改善費がつく場合で約517万円、おおむね経験3年目のキャリアに応じた処遇改善加算Ⅱがつけば約523万円、おおむね経験7年目の処遇改善加算Ⅱが最大でつくと約565万円になる計算だ。

しかし、実際に保育士が受け取る年間賃金の実績は、東京23区の平均が約381万円だ(内閣府の2019年度調査)。公費と実際の賃金の差は最大で約184万円、最小でも約136万円になる。

保育園運営会社大手や中堅の賃金はどうか

ただ、公定価格の人件費は保育士の最低配置基準に基づくため、基準より多い人数、保育士を雇っていれば1人当たりの賃金額はどうしても低くなる。

そのため、これまでの取材から「保育士の配置がギリギリだ」とわかった保育園運営会社大手や中堅の賃金はどうか、東京都がホームページ「こぽる」(とうきょう子供・子育て施設ポータル)で公開している2018年度の常勤保育従事者の賃金実績を調べた。

「1人たりとも最低配置基準以上に保育士を置かない」とされるX社が運営する、東京23区内の認可保育園の賃金を見てみよう。X社傘下のA園の年間賃金は約363万円(平均勤続年数は4年)、B園は同343万円(同2年)、C園は同358万円(同6年)だった。

同様に、経営方針として「配置基準以上に保育士を雇うための自治体からの補助金が出ない場合は配置基準通りにする」というZ社の保育士賃金も低い。Z社傘下の東京23区にあるD園では年間賃金で約392万円(平均勤続年数は6年)、E園では同372万円(同7年)、F園では同355万円(同8年)だった。

「こぽる」(1月15日時点の掲載分)から、株式会社大手9社の賃金状況を集計すると、年間賃金は約323万~386万円にとどまり、公定価格の基本分の約443万円の水準にも達していないことがわかった。想定される年間賃金とおおむね150万円の差が生じていた。ではいったい、差額はどこに消えているのか。

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