昭和史研究の第一人者が語る「総理大臣の格」 有事の政治家は「石橋湛山」を範とせよ

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私がAランクに数えたいのは、私自身はその政治姿勢や事績に決してプラスの評価を与えているわけではない人物も含めてということになるが、伊藤博文、原敬、若槻礼次郎、鈴木貫太郎、吉田茂などは、その枠内に入るであろう。彼らはとにかく何事かを成しとげたからである。

戦後政治家では吉田を筆頭に、石橋湛山、池田勇人と、佐藤栄作などはその列に加えるべきだと思う。この列に加わる首相は、吉田が「講和条約締結」、池田は「高度成長」、佐藤は「沖縄返還」などを成しとげていて、Aランクに数えても決しておかしくはないはずである。

こういう政治家に共通しているのは、実現しようとする政策に体当たりでぶつかっていき、そのエネルギーに国民がついていく、あるいは納得するという構図がうかがえるのである。

Aランクに列することのない首相は、何かを成しとげようとするエネルギーそのものに欠けていることがわかる。例を挙げていうならば、昭和10年代に第3次にわたり内閣を組閣した近衛文麿は、確かに理知的であり、頭脳明晰であり、そして出自もまた当時の日本では天皇側近としての血統をもっていて、国民の期待も大きかった。しかし近衛は、歴史的には、とうていAランクには入らない。あえていえば、Cランクではないかとの思いがするほどだ。

近衛は日中戦争時にも、太平洋戦争への道筋でも軍部に押されて実際に首相としての力を振るうに至らなかった。彼に決定的に欠けていたのは、国難に直面してそれを乗り切るだけのエネルギーをまったく発散できないことであった。本人には忸怩(じくじ)たる思いがあったであろうが、しかし歴史は決して彼にいい評価を与えることはない。

なぜ石橋湛山がAランクなのか

前述のように私は、Aランクに石橋湛山を含めている。なぜ彼はそのランクに位置づけられるのか、彼はわずか2カ月余り、首相の座に座っていただけでないのか、何かを成しとげたか、との問いがすぐに起こるであろう。そういう問いに、私はいくつもの点を挙げて反論することができる。あえて2点に絞って考えてみたい。

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