「フィット」発売1年、快適さが際立つ通信簿 コンパクトカーらしい実用性を追求したホンダ

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そのうえで、e:HEVは、高速走行ではエンジンを使っての走行も行う。ガソリンエンジンをもっとも効率いい回転数で安定的に使えば、燃費は大幅に改善される。それ以外の走行状況ではモーターで走ることになる。

ハイブリッド車(HV)は、トヨタが初代プリウスで1997年に価値を世界に知らしめたが、トヨタの方式はガソリンエンジン車の燃費を2倍にするという趣旨に基づいた機構だ。一方、ホンダのe:HEVや日産のe-POWERは、モーター走行を主体とし、電気自動車(EV)の姿を拡張した方式であり、モーター駆動のよさを身に付けている。ホンダは、まだワンペダル操作には活かしていないが、EVの運転感覚をHVへも採り入れることで、より楽に運転でき、快適で安全性の高いHVを目指している。HVの価値を、これまで以上に拡張できる方式をホンダと日産は選んだといえるだろう。

写真左は、燃費性能に優れるトヨタ「ヤリス」。写真右は、ホンダe:HEVに近いe-POWERを採用する日産「ノート」(写真:トヨタ/日産自動車)

ゆとりのある後席の広さもアドバンテージ

フィットの魅力は、それだけではない。前席のみならず後席の座り心地もよく、後席の空間も開放的に確保され、乗員すべてが移動を快く思える室内となっている。後ろのドアを開けると、後席の背もたれは後輪の前端に近いところへ揃えて設定されていることにより、後席への乗り降りをしやすくしている。また足元も、車外へ爪先を出しやすいゆとりが設けられている。

つまり新型フィットは、福祉車両とまではいかないまでも、老若男女誰もが便利に心安らかに利用できるコンパクトカーとしてのユニバーサルデザインの目配りがなされているのである。このフィットの価値を、開発責任者は「日本に最適なコンパクトカーをつくることを目指した」と語り、「それを、世界へ販売するグローバルカーに育てたい」と考えて企画し、開発したという。この開発責任者の想いは、まさに本田宗一郎が描き続けてきた「世のため人のため」のものづくりであり、ホンダの精神の根幹を成すものだ。

新型フィットの開発責任者の想いは、日本人として嬉しく、日本人としての誇りでもあり、その尊い価値が、販売台数という実績を伴いながら実証されたといえるのではないか。グレード別の販売比率で、標準車となる安価なBASIC(ベーシック)が20%を占めていることにも、それが現われていそうだ。

フィットのリヤスタイリング(写真:ホンダ)
御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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