熱狂なき「日経平均3万円」で警戒すべきこと コロナ収束期待だけでは説明できない高値の背景

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内外で分けてみると、米国ではバイデン政権が総額1.9兆ドルの追加経済対策を打ち出した。中国では3月5日から開催される全人代(全国人民代表大会)で成長戦略が示される見通しで、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しも上方修正された。

足元の日本企業の業績は回復基調が鮮明だ。2021年3月期企業の第3四半期決算では、トヨタ自動車などが上振れ着地して通期予想を引き上げた。企業の通期見通しにはまだ上振れの余地がある。来期も増益が続くならEPSが拡大して、日経平均3万円台でも割高感が小さくなる。

ただし、2021年の環境がよすぎることによる「相場の頭打ちリスク」も念頭に置いておくべきだろう。2021年度の業績には、コロナ禍で抑制されていた需要が一気に吹き出す「ペントアップ需要」に加え、企業がコスト削減を推し進めたことで利益が急回復する「リストラ効果」も上乗せする。2022年度はそれらの効果が剥落し、増益率が見劣りするかもしれない。今年後半以降は株価も頭打ちとなる懸念がある。

「高値銘柄」の波乱に警戒

一方で、「売らない買い手」の影響で、株式の需給が逼迫する可能性もある。「2010年からの11年間で、両者(日銀のETF買い、企業の自社株買い)は累計で76.1兆円の買い越しになっている」(東海東京調査センター・鈴木誠一チーフエクイティマーケットアナリスト)。これは、市場に流通している浮動株を基準とするTOPIXの時価総額430兆円弱に対して、2割近い規模になる。

浮動株とは、親会社や創業オーナーといった大株主の持ち分(特定株)を除いたものだが、「年金基金のように長期保有する投資家がいる。個人も長期投資や株主優待が目的の場合、頻繁に売り買いしない」(鈴木氏)。売買の玉(浮動株)が枯渇すれば、株価は乱高下しやすくなる。特定の銘柄に買いが集中して、急騰するケースも目立ってくる。

株価水準の高い銘柄に影響を受けやすいという日経平均の構造的な問題もある。2020年10月から2021年2月15日まで、日経平均は3割超上昇したが、上昇幅7107円の1割超はファーストリテイリング1社で占めている(同期間のTOPIXは23%上昇)。

また、日経平均225銘柄の構成比上位3社(ファーストリテイリング、ソフトバンクグループ、東京エレクトロン)で上昇分の3割超を占めており、これが値下がりすれば日経平均も下落しやすくなる。今年の株価は「3万円台」という全体の数字よりも、日経平均を構成する「高値銘柄」の波乱リスクをこそ、警戒すべきなのかもしれない。

山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

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やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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