集団的自衛権、黒幕の米国が考えていること 日米安保体制はますます米国の思うまま

拡大
縮小

つまり、米国は在日米軍をきっちり維持することによって、中東と東アジアを結ぶ海上交通路(シーレーン)での有事の際、米国の陸軍も海軍も空軍も海兵隊も、時間や金、人員輸送を大幅に節約できる。そして、平時の際でも、アジア・太平洋でのアメリカの覇権を維持する軍事プレゼンスを保つことができる。米海兵隊が特に沖縄に駐留している価値について、沖縄の第3海兵師団の大隊長を務めたR・K・ドブソン中佐は、かつて以下のように述べた。

「東アジア・太平洋地域において、どこにでも航空機と海上輸送力を使って迅速に派遣できることにあり、沖縄の戦略的位置は、対応所要時間を減らし、米本土からの増援軍と、補給物資の輸送に必要な限定された戦略航空・海上輸送能力の規模が小さくすむようにさせている」

つまり、ティラニー・オブ・ディスタンスを克服するためにも、米国は沖縄や横須賀、佐世保などの在日米軍基地にこだわっている訳だ。

前出のニューシャム氏のような論客には、上記のような反論が可能だろう。つまり、「日米安保は片務的だ」というのであれば、日本は米国に対して既に戦略的に重要で広大な基地を貸している。これも片務的なものだ。もし本当に双務的な安保体制にするならば、嘉手納の見返りとしてグアムのアンダーセン空軍基地、横須賀 や佐世保の見返りとしてハワイのパールハーバーやサンディエゴを貸してくれ、と日本は主張すべきだ。

外国の軍隊を置くことの重い意味

外国の軍隊が自国に存在する、という国家の独立心に関わる問題も忘れてはならない。これも日本が支払っている大きな負担だ。

ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーの先輩記者、故・江畑謙介氏も以前、著書に記していたが、基本的にいえば、どんな国にも外国の軍隊と基地があるのは好ましくないものだ。軍隊と言うのは、国権を発動する一国の武力行使組織。そんな外国の軍隊と基地を自国内に受け入れた場合、自国の国家主権の制限や侵害の事態を生み、必ずトラブルの元になるからだ。古今東西、自国の地に外国部隊が拠点を設けた時の強い反発はいろいろな場所で見られてきた。安倍首相が本当にナショナリストであるならば、集団的自衛権の行使容認の後、米国優位・日本劣位の状況を克服するため、在日米軍基地の縮小を目指すべきだ。

日本は年末にまとまる日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定に集団的自衛権の行使容認を反映させる方針だ。そして、改定ガイドラインでは米国の要求通りに、アジア太平洋を中心とする地域での安全保障の負担増を受け入れていく構えだ。しかし、「集団行動」の大義名分の下、米国からの軍事的な役割の拡大がますます求められることが予想される中、日本政府は納税者である国民の理解や国益を踏まえて、米国との交渉でやり合えるだろうか。

集団的自衛権の論議は確かに日本と米国が真の意味で対等の立場で協力していくためにはどうすればいいのか、を問うている。しかし、今は、日本側が言うべきことを言い、安保負担をめぐる国内世論と米国との認識ギャップを縮める努力をすることが急務のように思える。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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