ディスラプティブ(disruptive)・イノベーションという言葉を最近、目にすることが増えたように思う。この言葉を日本語に訳し、「破壊的な革新」と記されているのを見ることがある。もちろん直訳をすれば、そのようになる。
しかし、ディスラプティブ・イノベーションに隠されている本当の意味は、「新しい市場や価値連鎖を生み出す革新」というものだ。 それが時として既成概念や既存の価値連鎖を壊していくこともあるので、「disruptive(分裂的)」と称されるわけだ。結果的に、新しい価値連鎖が、古い価値連鎖を破壊する。
つまり、破壊することが先にあるのではなく、新しい価値を創造することから始まることを心に留める必要がある。
イノベーションとは「新しい仕組みを動かすこと」
イノベーションとは、新しい価値連鎖を生みだすことである。そのイノベーションの舞台は、最先端のテクノロジーや製品に限ったものではない。真のイノベーションは、ビジネスモデル全体を仕組みとして動かすことだと思う。
その典型例をひとつ紹介しよう。アップルが進めたビジネスイノベーションについて、だ。現在、アップル社は株式時価総額で55兆円程で世界最大規模だ。ちなみに、マイクロソフトは35兆円ほどで、当社(セールスフォース・ドットコム)はまだ3兆5000億円ほどだ。
当社のCEOであるマーク・ベニオフは、スティーブ・ジョブズ氏と親交が厚かった。iPhone発売前のある日、面談をしていたら、「実はiPadがすでに開発されていたが、それを市場へ投入するのを棚上げにして、iPhone開発に注力し販売も先行させることにした」と聞かされたという。
選択と集中の例として紹介された逸話だが、この話をきっかけに、私自身が考えたことがある。もし、アップルがiPadを先に市場に投入していたら、アップルは今日ほど成功していただろうか、ということだ。皆さんも一緒にこの問題を考えてみて欲しい。
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