今から日本に「天才起業家」ひしめく時代が来る 藤野英人「起業界の藤井聡太や大谷翔平が続出」

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例えば将棋の藤井聡太さんとか、メジャーリーグの大谷翔平さんとか、スケートの羽生結弦さんとか。世界のてっぺんを軽々と超えていく若者たちは、言葉や考え方に深さがあって、どこか老成した感じすらある。そのうち藤井さんや大谷さんみたいな起業家が頭角を現してきますよ。

――そういう人たちがなぜ生まれてきたのでしょう。

かつて全否定された「ゆとり教育」がよかったのかも、と思っているんです。彼らの親世代は団塊の世代とは価値観が違う。「いい大学を出て大企業に入るのが幸せ」という考え方がないわけではないが、「それだけじゃないよね」という部分がある。「世の中のため、自分が好きなことのために生きる」という考え方を子どもたちに伝えてきたのかもしれません。

「起業すべき人」「違う人」分けるシンプルな条件

――私も世界に通用する起業家の登場を待ちわびる1人ですが、藤野さんもご存じのようにベンチャーというのは1000社のうち3社成功すればいいほうという、厳しい世界でもあります。若い人たちに安易に「起業しろ」とは言いにくい面もありませんか。

表では「起業しろ」と言っている私ですが、実際に若者が相談に来ると「やめておけ」とあらゆる手段を使って止めるのです。

迷っていた人はそこでやめますが、いくら止めても「やっちゃいました」と言ってくる人がいる。起業すべきなのはそういう人でしょう。彼らは「成功するか、失敗するか」なんてそもそも考えない。「サラリーマンか起業か」と二択で考える人はやめたほうがいいかもしれません。

一方でサラリーマンの世界の失敗は「価値がない」と見なされますが、失敗に「価値がある」と評価されることもあるのが起業です。よく起業家に言うのですが、起業が失敗しても一番リスクを取っているのは、お金を出したエンジェル投資家で、起業家ではありません。

起業家の場合、失敗が経験になり、次の挑戦に生きるのです。素直に、人に愛されながら挑戦できる人は、失敗しても見捨てられない。骨は拾ってもらえます。

――江副さんがまさにそうでしたが、かつての日本は失敗に不寛容でした。成功した人が少しでも失敗すると再起不能になるまで叩く。ベンチャー大国のアメリカとは大違いです。ビル・クリントン元大統領が典型だと思いますが、ホワイトハウスで情事に及ぶ大スキャンダルで人間的には失格の烙印を押されましたが、彼が実現した中東和平や経済政策は今も評価されています。

アメリカも不正は激烈に叩きます。その激しさは日本の比ではないかもしれない。しかし失敗を受け入れる社会なので、やり直しがきくのです。

失敗を受け入れるかどうかで試されるのが新型コロナウイルスのワクチンでしょう。大多数の人には有効でも、中には有効でない人もいる。ワクチンを接種したことで亡くなる人が出るかもしれない。無謬性を求める日本の社会で、その失敗を受け入れられるかどうか。

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金融でも日本は無謬性が求められるので、損をすることもある投資は悪だと考えられてきました。日本人は安全・安心の安心が大好きで「ノーリスク」を求める傾向があります。しかしそれでは大きなリターンは得られません。

日本が乗り越えるべきは、この「ノーリスク病」との戦いであり、『起業の天才!』の表紙にあるように「いかがわしさ」を受け入れることです。「いかがわしさ」とはすなわち「不確定」であること。それを恐れていては起業などできません。

それでも私が楽観的なのは、今の日本の20代、30代が投資を悪だとは思っていないからです。彼らが物心ついたのはリーマンショックの後であり、そこから今までの13年間は日本の株価も右肩上がりを続けている。

我々の世代は1990年から2008年までの長い右肩下がりを経験していますが、今の若者にとってリーマンショックは学生時代の話、バブル崩壊はおじいさんの世代の話です。失敗を恐れない彼らが、軽々と世界のてっぺんを超えていく。想像するだけでワクワクするじゃありませんか。

大西 康之 ジャーナリスト

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おおにし やすゆき / Yasuyuki Onishi

1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』などがある。

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