電化ではなく「電車化」する路線、なぜ増えたか モーター駆動の気動車や蓄電池車両が続々登場

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近年、架線を張らない電化はハイブリッド型気動車だけではない。日本各地で蓄電池式電車が走りはじめている。JR東日本の男鹿線、烏山線、JR九州筑豊本線の非電化区間、香椎線である。男鹿線のみは現在でも気動車中心の運行だが、他の路線では気動車が引退した。つまりこれらの路線は電車しか走らない非電化路線となる。車両は烏山線のみが直流式で、他の路線は交流式だ。

こちらは電車然としたスタイルで、充電用にパンタグラフを備えているが、非電化区間ではパンタグラフを下ろして走る。電化区間とまたがって運行する場合は電化区間で充電しながら走行するほか、終着駅などで、折り返し時間の10分程度で急速充電する。

現在のところ、蓄電池容量の関係で、距離の短いローカル路線のみでの運転となっているが、蓄電池技術の進歩は目覚ましいものがあるので、将来的にはもっと長い路線での運転も可能となるのであろう。

海外では路面電車も車両のみの電化

海外へ目を向けると、この蓄電池式電車は、非電化区間の電車化とは違った目的で活躍する機会が多くなっている。世界には人口が多いにもかかわらず交通インフラが整っていない都市が多く、かといって地下鉄は建設費が高く、莫大な資金を要する。そこで、比較的安価に建設できるLRTを採用する都市が多いが、路面を運行する場合、架線が景観を乱すという難点がある。そこで架線不要の蓄電池式の路面電車を走らせているのである。

日本でも路面電車に架線がなければ、景観がすっきりするはずで、鹿児島では「センターポール化」といって上下線の中間に一本のポールを立て、その一本のポールで上下線両方の架線を吊るし、少しでも景観がすっきりするよう配慮がなされているが、蓄電池式電車なら架線そのものが一切不要になる。

新たに建設される路面区間のあるLRTでは、蓄電池式が多くなっていくと予想できるほか、既存の路線で蓄電池式車両に切り替え、架線撤去に踏み切る路線が現われる日が来るのかもしれない。

鉄道車両技術の進歩は日進月歩で、今後、従来式のエンジン駆動の気動車新製はかなり減るであろう。地方へ行くと駅前などに「○○線電化の早期実現を」などという看板もよく目にする。とはいえ、施設を電化しなくても、電車化だけでいいなら、架線がなくても電化は可能な時代になった。電化路線か非電化路線かという感覚も、従来とは違ったものになる日がやって来るであろう。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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