半導体不足、「急増産」に立ちはだかる2つの壁 自動車各社は需給逼迫で減産に追い込まれる

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2020年の5~6月ごろは、自動車産業がこれほど早く回復すると誰も予想しておらず、半導体メーカーも生産ペースを落としていた。例えば、自動車向けが売り上げの約半分を占める国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、自社工場の前工程稼働率を当時、60%以下まで落としていた。

急に増産できないもう1つの事情は、車載半導体の生産を外部に依存するようになっていることだ。半導体業界では近年、コストのかかる自社工場での生産から台湾TSMC(台湾積体電路製造)などのファウンドリー(受託製造会社)への製造委託に移行するケースが増えている。

ところが、TSMCなどはパソコンやデータセンター向けなどの半導体も手がけている。コロナ禍でも好調なこれらの業界向けに生産能力を振り向けており、車載向けは「ギリギリまで生産量を削らされていた」(業界関係者)。

つまり、車載向けの需要が減ると見込み、限界まで生産を削った結果、想定外の需要回復に追いつけなかったというのが、今回の半導体不足の背景にある。

ルネサスは「車載向け半導体」値上げへ

気がかりなのは、半導体不足が拡大するおそれがあるかどうかだが、その可能性は低そうだ。複雑な自動車部品のサプライチェーンの途上で、流通在庫が眠っている可能性もある。半導体市場の先行きは、米中貿易摩擦によって不透明だった2020年夏と比べて見通しやすくなっており、自動車用半導体へ割り振りもしやすい。

ただ、今回の半導体不足は、これまで自動車メーカー側の交渉力が強く、利益率の低かった車載半導体の取引を変える可能性がある。ルネサスは車載半導体を1割弱値上げする方向で顧客と交渉中だ。

同社は「銅をはじめとする原材料の価格が上がっている」と理由を説明するが、「需給が逼迫すれば、半導体メーカーの価格交渉力は高まる」(前出の幹部)のは間違いない。ヨーロッパの半導体メーカーや台湾のTSMCなども同じく値上げの動きが取りざたされている。

自動車の電装化に伴う半導体搭載量の増加や中国地場メーカーの台頭により、半導体の確保をめぐる競争は今後一層厳しくなる。2020年後半の市況回復を見て一部の半導体商社は業績見通しを引き上げており、産業界での「半導体優位」はますます加速しそうだ。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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