知識創造理論が「ビジネス最強の武器」になる訳 四半世紀で「日本企業が失ったもの」は何か

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遠藤:現象学まで取り込んでしまうとは、つくづく奥が深い。私が「知識創造理論」をすごいと思うのは、世界で唯一といっていい、「組織において新しい知がつくり出されるプロセスをしっかり説明した理論」だからです。「知識社会」という言葉を発明したピーター・ドラッカーも、『知識創造理論』を「現代の名著」と絶賛していたくらいですから。

野中:ありがとうございます。

野中郁次郎(のなか いくじろう)/一橋大学名誉教授。1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D.取得。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学各教授を歴任。日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威。主な著作に『知識創造企業』『失敗の本質』などがある(撮影:梅谷秀司)

遠藤:さらに言うと、2つの意味ですごいと思っています。ひとつは、「経営における『情報』と『知識』の違いを明らかにした」こと

すごくはしょっていうと、「情報」というのは、「人間の目的や信念とは関係なく外からもたらされるもの」であるのに対し、「知識」は「目的や信念に深く関わり、人間自身が作り上げるものである」ということです。

現代の企業を制するのは「情報」よりも「知識」なんですよ。そういう意味では、「知識創造理論」は競争力の源泉となる革新、つまり、イノベーションが起こるメカニズムを説明する際にも活用できる。 

野中:そのとおりですね。

遠藤:もうひとつは、その「知識」にも2種類があることを明らかにしたことです。ひとつは言語化あるいは記号化された「形式知」であり、もうひとつが言語化や記号化が困難な、その人の身体に深く根差した「暗黙知」です。その2つをもった個人が全人格的に交流しながら新たな知を紡いでいく。それが知識創造のプロセス、すなわち「SECIモデル」ということですよね。

野中:おっしゃるとおりです。「形式知」と「暗黙知」の区別は氷山で考えるとわかりやすいんです。海の上に出ていて、その正体がよく見えるのが「形式知」であり、逆に海の底に潜って見えないのが「暗黙知」なんです。暗黙知と形式知はグラデーションでつながっていますが、「暗黙知」こそが人間の創造力の源泉なのです。

知識創造が「神棚に供えられて」しまっている

遠藤:なるほど。私が最近思っているのは、この「SECIモデル」にしても、知識創造にしても、多くの日本人が日本企業の現場で日々取り組んでいることにほかならないということです。ほかの国ではなかなかそうはいかないでしょう。

知識創造が「大衆化」「民主化」されているところに日本の強みがあったはずなのに、それがどんどん薄れてきた。知識創造が神棚に供えられ、「特殊な人しか実行できない特別なもの」のように思われている。私はそこを大変残念に思っています。

野中:最初に「思いや共感ありき」ではなく「理論や分析ありき」になっているからではないでしょうか。

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