米議会突入と香港弾圧、世界が向う「2つの暗黒」 二大国が競演「ディストピアの時代」の現実

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トランプ大統領の今回の言動に対しては共和党内からも批判が相次ぎ、閣僚やホワイトハウス幹部ら最側近が「もはや耐えられない」とばかり、相次いで辞任している。

また、イギリスのジョンソン首相をはじめ独仏やEU首脳らも次々と「恥ずべき光景だ」(ジョンソン首相)、「映像を見て怒りを感じるとともに、同時に悲しくなった」(ドイツのメルケル首相)などというメッセージを発している。

理性的に分析すれば、今回の事件によって、トランプ大統領につき従っていた共和党議員がトランプ大統領から離れていくだろう。また議会に乱入するという常軌を逸した行動の結果、トランプ大統領の支持者に対する非難が高まり、支持離れも加速するだろう。その結果、トランプ大統領の政治的影響力が急速に落ち、アメリカ政治は正常化するだろう、となる。

ところが、長年ワシントン政治を見ている知人に聞いたところ、現実はそれほど甘くないようだ。

突入でも揺るぎないトランプ支持層

トランプ大統領の支持者の中核は、もともとはアメリカの経済成長を支えてきた中間層の白人らだ。しかし、産業構造の変化などで職を失ったり所得が大きく減った階層でもある。彼らは自分たちを歴代政権の政策の被害者であると考え、ワシントンのプロの政治に批判的である。そのため、既存の秩序を破壊するという声を上げてさっそうと登場したトランプ大統領に期待を寄せてきた。

従って連邦議会議事堂に乱入し、議会を混乱に陥れた今回の行動は、彼らが掲げる「反エスタブリッシュメント」を象徴する行為である。つまり今回の事件は、トランプ支持者を勇気づけることはあっても、萎縮させることはないだろうというのである。

実際、イギリスの世論調査会社「You Gov」が議会突入直後に行った世論調査では、共和党員で今回の事件を民主主義に対する脅威だと考えているのは27%にすぎず、68%がそうではないと回答しているという。そして、トランプ支持者の議事堂乱入の行動に対し、支持は45%、反対は43%と、評価が完全に割れる結果となった。トランプ大統領を支持する岩盤層はいまだにゆるぎない強さを維持しているようだ。

いずれの見方が正しいのかはこれからの推移を見るしかない。しかし、今、はっきり言えることもある。それはアメリカがもはや民主主義のお手本の国ではないということだ。

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