「ラブコメ」ドラマで圧勝するTBSの大胆な妙手 「恋つづ」「わたナギ」といったヒットを連発

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しかもこの傾向はテレビ番組だけでなく音楽、ゲームなど、あらゆるエンタメコンテンツに共通している強固なものだ。それだけに、「ハッピーエンド」という良い意味での既視感があるラブコメは、現在の視聴者にとって最も安心して楽しめるドラマとなっている。

また、2016年秋「逃げるは恥だが役に立つ」がヒットして以降、「悪人が登場しない」という、さらなる既視感が追加された。かつてのように主人公の足を引っ張るライバルは必要とされず、出てきたと思ってもすぐに退場するか改心してしまう。

これは「重苦しさを感じさせるシーンが続くと視聴者が離れてしまう」という懸念によるものであり、だからこそ「ストレスを与えずに最後まで楽しんでもらう」という方針が貫かれているのだ。この方針は、現在の視聴者がドラマに「明るさ、笑い、癒し」を求めているからであり、その傾向はコロナ禍によってますます強くなり、全世代に広がっている。

これら良い意味での既視感は、「恋はつづくよどこまでも」「私の家政夫ナギサさん」にも受け継がれ、視聴者を喜ばせたことから、しばらくはラブコメのベースとなっていくだろう。

作品の深みを奪うリスクも

しかし、「視聴者にストレスを与えない」という方針は、見方を変えれば迎合しているようでもあり、作品の深みを奪い、カタルシスを薄めてしまうリスクがある。安心して見ていられる一方で、「ヒロインはどうなってしまうのか」と心配したり、「絶対に結ばれてほしい」と心の底から願ったりなど、本気でハラハラドキドキさせる可能性は低いのだ。

安心感とハラハラドキドキをどう両立させていくのか。ラブコメの作り手にとっては、これが直近の課題と言えるのかもしれない。

課題と言えば、女性向けの漫画に頼らず、オリジナルを手がけることも重要なポイントの一つ。オリジナルなら、原作ファンの批判を受ける不安はなく、登場人物を自由に描くことができ、結末のネタバレがないなどいいこと尽くめで、ネット上の盛り上がりも期待できる。しかし、時間、人材、完成度などの面から簡単にはいかない。

昨年、ラブコメのトップをゆく「火曜ドラマ」は、漫画原作の「恋はつづくよどこまでも」「私の家政夫ナギサさん」のあとに、オリジナルの「おカネの切れ目が恋のはじまり」「この恋あたためますか」を制作した。

これまで同枠のラブコメはすべて原作ありの作品だっただけに、「満を持してオリジナルに挑む」という次のステージに入ったのだろう。ただ、両作は(コロナ禍による)不運などもあって、期待したほどの結果や反響は得られなかった。

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