衝撃の逃亡から1年「ゴーン」は何しているのか レストランやスキーを自由に楽しんでいるが

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しかし、ゴーン被告は告発内容に対し直接的かつ説得力を持って応じたことはなかった。過去12カ月の間にゴーン被告が受けてきたインタビューはほぼ、事件の細かい詳細を知らない外国人ジャーナリストによるインタビューである。そのため、彼を拘置所に送り込んだ原因である検察側の容疑を除き、ゴーン被告はすべての話題について話してきた(日産の運命、日本の司法制度の不公平さ、フランスのエリートらによる裏切り、新妻キャロルとの関係など)。

ゴーン被告はまた、11月中旬にフランス語で出版された480ページに及ぶ自身の著書『The time of the truth(真実の時)』で自身の主張を繰り広げることもできた。著書の中で、同被告は彼に対し敵意を持つと主張する人々(西川廣人氏やマスコミ)を激しく攻撃している。

しかし、ゴーン被告が自身の容疑に対し具体的に答えるため著書に割いた割合は30ページ程度、全体の6%程度であった。また、ゴーン被告は彼が主張する日本政府によって組織された「陰謀」を裏付ける証拠を何も提示していない。

裁判をしても「何も差し押さえられない」

日本の刑事司法制度には「欠席裁判」の制度がないため、ゴーン被告の公判は日本で開かれることはない。しかし、ゴーン被告の右腕であるグレッグ・ケリー氏と日産との間で現在日本で行われている裁判では、ゴーン被告に対し退職後さまざまな形で役員報酬の半分が後払いされる非開示の役員報酬制度を作ろうとしていたことが示された。ゴーン被告元側近で告発者であるハリ・ナダ氏と日産の前社長兼CEOの西川氏の証言は、ゴーン被告の行動を異なる観点から見直すことになるだろう。

さらにゴーン被告の「長年に渡る不祥事と不正行為」により発生した損害を取り戻すためとして、日産が100億円の支払いをゴーン被告に求める別の訴訟が11月13日に横浜地裁で始まった。これは民事訴訟となる。今回の訴訟に詳しい関係者によると、この裁判は2~3年続く見通しだという。

しかし、この裁判で日産側が勝ったとしても、ゴーン被告は日本で差し押さえ可能な資産を保有していないため、おそらく何も差し押さえられないだろうという意味で、日産の法務部ではすでに今回の訴訟を絶望的と見ているようだ。しかし、日産はそれでも訴訟を続ける。「株主に対し日産の努力を示さなければ、株主は怒るだろう」と本件について説明を受けた関係者は話す。

ゴーン被告の運命に関するもう1つのエピソードは、逃亡を助けたとされるマイケル・テイラー氏とピーター・テイラー氏の2人が日本へ身柄が引き渡される可能性が非常に高いことから始まる。

親子である2人はゴーン被告の海外逃亡を組織した3人の準軍事組織の幹部のうちの2人である。もしテイラー親子の身柄が日本に引き渡された場合、2人はゴーン被告のように東京の小菅拘置所に送られ、ゴーン被告がそうであったはずのように、最終的に刑務所に送られることになる裁判を受けることになるだろう。言い換えれば、2人はゴーン被告の運命を背負うことになる。

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