ニッポン大企業の内憂外患

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 値上げを比較的順調に進められるのは、たとえばキユーピーのマヨネーズなどのようにブランド力が強く、その商品がなければスーパーの売り場が成り立たないような“強い商品”を持った企業に限られる。大手流通企業も値上げをのまざるをえないような強い製品を持たない会社は値上げが進められず、08年度減益が避けられないだろう。

竣工前に700万円値下げ 契約率は17年ぶり低水準

マンション業界は数年続いたブームが終焉。08年度には苦境に陥る中堅・中小業者が出かねない。 

年明け1月、販売価格を一気に引き下げ話題になったのは、新日鉄都市開発と東京建物が販売する東京東村山市の物件「ココロコス東京久米川」。406戸という大型開発で西武新宿線久米川駅まで徒歩10分。竣工予定は3月。

幹事会社の新日鉄都市開発は「竣工前の販売をスピードアップするため、各戸で平均して500万~700万円値を下げた」(広報担当)と言う。この値下げ幅、3500万円の物件でいえば、最大20%という大幅な引き下げになる。

値下げに動いているのは大手ばかりではない。神奈川県中心にマンション販売を手掛ける中堅のノエル。新築物件の販売を加速させるため「個別に価格改定を進める」(広報担当)と言う。「値下げ」という表現は避けているが、今期の粗利率は「平均で6%下がる」(同)とも言う。
こうした“売り急ぎ”ともみられる各社の対応の背景には、マンション販売に先行き不安があることから、資金の回転を早めたいとの財務上の要請がある。先に発表された不動産経済研究所の1月のデータによると、首都圏マンションの供給戸数は2320戸。1月としては1998年以来10年ぶりの低い水準だ。契約率も52・7%と91年8月以来17年ぶりの低水準となっている。まさにマンション販売は冬の時代を迎えている。

急速に悪化した理由は何といっても価格の高騰。昨年の首都圏のマンション価格は4644万円。バブル崩壊直後の92年の5066万円以来の高価格だ。07年に入り、マンション各社は用地費上昇分を乗せた「新価格」や建築費上昇分も乗せた「新々価格」を設定してきた。が、結局、購買層からは「ノー」を突きつけられた格好になった。

さらに、昨年6月に施行された改正建築基準法による影響も今年後半から本格化する。審査の遅れで今年後半に完成する物件は急減するとみられる。購入者にとっては選択の幅が狭まるわけで、さらに市場を冷やすおそれもある。 

今後の展開はどうなるのか。マンション業界に詳しいトータルブレインの久光龍彦社長は「新価格以降の値上がり分である20%程度の価格引き下げが不可欠だ」と言う。しかし、この引き下げが簡単にはいかない。業界トップの大京の07年4~12月期の粗利率がまさに20%。粗利のすべてを値下げで吐き出せば販売費等の負担で営業赤字に転落し、死活問題になる。「バブル期より新興企業が多く、競争は熾烈になる」(角田勝司・不動産経済研究所社長)との予測もあるなか、自己資本の薄い中小業者にとってはまさに崖っ縁に追い込まれる年になりそうだ。

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