人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる

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――近年はそのヒアリやアルゼンチンアリなどが人体に影響を与えたり、在来種を駆逐したりしています。外来アリにどう対応したらいいのでしょうか。アリの専門家としてできることは何ですか。

ヒアリやアルゼンチンアリのように、人の生命や生態系に影響を及ぼす恐れがある特定外来生物に指定されているアリに関しては、日本に定着した場合の影響力が大きいので、殺虫剤を使って防除するというのは一つの手だと思います。もちろん、それで十分なはずはありません。

先ほど説明した分業モデルの実証を通して「なぜ在来アリを駆逐するほど侵略性が高いのか」の基礎研究を深めていくつもりです。外来アリは日本でも社会問題になってきたので、頑張って社会貢献したいと思います。

でも同時に、「これまでないがしろにされてきた基礎的な研究を継続していたからこそ、こういった対策が取れるんですよ」という点も示せたら、と思っています。

社会に対する寄与をあえて意識せず、研究者それぞれがそれぞれのテーマを掘り下げていく。その掘り下げた研究成果が結果的に社会への寄与につながっていくんじゃないか。私はそう信じています。

人間とアリと微生物の共通点

基礎的研究を通して、アリの集団には「働かないアリ」「裏切り者」がいることがわかりました。「裏切り者」が進化することで、社会の共同を破壊する現象が起こっていることも明らかにすることができました。

こういう「ペイオフ構造」を有するゲームが自然界で成り立っているのは、既知の生物では人間とアリと微生物だけなんです。

ただ、裏切り者が進化していく裏側では、共同するアリが集団の中にすごくたくさんいるのもまた事実です。局所的には裏切り者のアリが共同するアリの働きを食い物にしていますけど、おおむね集団の秩序は維持されているわけです。

人間の社会も同じだと思います。いつの時代も利己的な振る舞いをする人や団体がいて、利己的な行動は広がりやすいという特徴を持っている。それでも私たちの社会の共同性は維持されている。それがなぜかということを知りたくて、私はアリの研究を続けているわけなんです。

取材:当銘寿夫=フロントラインプレス(Frontline Press)所属

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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