英国「7つの階級」調査が教える政治のあり方 新しい不平等の台頭に政治はどう対応するか

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そのような状況を反映し、政党支持の状況も様変わりした。かつてのような、職業階級との強い関連性はなくなっている。経営職、事業主・自営業者、事務系職の保守党支持率は下がり、労働党支持率と拮抗している。

(出所:『7つの階級:英国階級調査報告』)

専門職・中間的職業の労働党支持率は歴史上初めて保守党をわずかに上回った。トニー・ブレアらが「ニューレイバー」を旗印に従来の労働者階級の政党とは異なる労働党を、そのような職業階級にアピールし賞賛を得たことによる。実際、労働党では、労働組合活動家や会社経営者、専門職などの旧世代の議員に代わり、大学で「政治学」を学んだ国会議員が主流を占めるようになっている。

表からは、肉体労働者は依然として保守党よりも労働党に共感を示す傾向が著しく高いことがわかるが、その支持率は50%をかなり下回っていた。労働者階級では棄権する者も増加し、政治体制全般への幻滅の態度を見せている。

旧来の政治の終焉=階級の消滅ではない

これらの2つの表は、20世紀の政治状況を支配してきた、労働者階級と中流階級の根本的な分裂にもとづく旧来の政治は終焉を迎えたことを物語っているように思う。しかし、本書で繰り返し強調してきたとおり、それは決して階級そのものの消滅を意味してはいない。

私たちは、階級と政治が交差する条件を考え直してみる必要がある。職業が階級を定義し、階級の利害によって政治的主張や支持政党が決まるような職業階級の政治は、今では非常に限られたものになった。

しかし、政党が支持を得るためには、多様化した有権者の将来の願望や価値観へどれだけ魅力的に訴えかけることができるか、また私たちの主張する用語で言えば、さまざまな種類の資本を蓄積する戦略をどのように提供するか、にかかっている。新しい階級の政治が機能するかどうかは、納得のいく未来像を明確に提示することができるか否かで決まる。

マイク・サヴィジ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会学部教授

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Mike Savage

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会学部教授と同大学国際不平等研究センター共同所長を兼任。
専門は社会階級と不平等分析。 マンチェスター大学、ヨーク大学で教鞭を執った後、2014年より現職。
著書に、Identities and Social Change in Britain since 1940: The Politics of Method, Oxford University Press,2010; Class Analysis and Social Transformation, Open University Press,2000; Culture, Class, Distinction, Routledge,2009(共著)(『文化・階級・卓越化』 磯直樹ほか訳、青弓社、2017年)ほか。

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