自己肯定感なんてゼロ
非正規労働者の「非」も、就職氷河期の「氷」も。これらの字を目にするだけで苦痛だと、ケンタさん(仮名、47歳)は言う。ただただ怒りや悲しみ、虚しさが募るのだと。
30歳を過ぎてからは、非正規雇用の仕事を転々としてきた。「努力も、自己研鑽もしました。でも、ここなら働き続けられると思ったら、雇い止め――。これの繰り返しです。(手取りで)15万円の壁が超えられない。自己肯定感なんてゼロです。自己責任というなら、お願いですから、誰か20万円稼げる方法を教えてくださいよ」。
30歳のとき、大手飲料メーカーの子会社に契約社員として入社。営業を担当し、自家用車でスーパーなどを回った。しかし、1日に何度も重いケースを上げ下ろししなければならず、椎間板ヘルニアを発症。5年足らずで雇い止めにされた。
しばらくアルバイトで食いつないだ後、別の大手飲料メーカー子会社に就職。雇用条件は「3年更新の契約社員で、3カ月空けて再契約することができる。正社員登用あり」だった。腰の調子もよく、「定年まで働き続けるつもりでした」。しかし、折あしくリーマンショックに遭遇。1回目の期間満了前に「次の更新はない」と告げられた。このとき、上司はケンタさんにこう説明したという。
「コンビニとか、タクシーとか、便利なものは高いでしょ。君たちの給料が高いのは、短期間だけど、その間にちゃんと稼いでもらうためでもあるんですよ」
最初は意味がわからなかった。しかし、後になって「お前たちは使い捨てできる便利な労働力だから、その分、高い給料を払っているんだ」という意味だと理解した。「いずれ路頭に迷うのかと思うと、仕事への意欲が失せました。給料ですか? 自家用車の維持費を含めて29万円くらい。言われるほど高給じゃありません」。
そもそも、会社はケンタさんを本当に雇い続ける気があったのか。「3カ月空けての再契約」は、非正規労働者をいつでも雇い止めにできるようにしたい会社の典型的な手口だ。ましてや正社員になれた人などいるのだろうか。私がそう尋ねると、ケンタさんはこう答えた。「過去10年間で、全国の契約社員の中から1人だけ正社員になった人がいると聞いています。毎日早朝から夜遅くまで残業する、伝説の契約社員として有名な人でした」。
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