趣味の「撮り鉄」、どこから迷惑行為になるのか 行き過ぎた「マナー違反」は法律で罰せられる

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「マナー」という言葉をよく耳にする。鉄道趣味でいえば、「撮影マナー」がよく言われる。マナーとは「他人に迷惑をかけないために守るべき常識や社会的ルール」である。

線路脇の施設に入るときに、小さな施設であれば係員に一声かけて立ち入り許可を求めるとか、撮影するときに写り込んでしまう人が特定されないようにするとか、やはり一声かけて承諾をとるとか、不快な思いをさせる撮影の仕方をしないとか、というものである。マナーは自然発生的なルールであったり常識を原因とするルールであったりするので、違反してもとくにペナルティはない。仲間や周囲の者、社会から鼻つまみ者になるくらいである。

罪に問われることもある

しかし、マナーが守られず、マナー違反により迷惑を受ける者の不快感が具体化し、損害が現実化すれば、いずれ施設の管理者、事業者から管理権に基づいて規制がかかる。管理者や事業者からそれまでは規制がなかったのに、立ち入り禁止や撮影禁止が課されたりすることもある。それでもなお管理者や事業者の管理権を侵害して施設に立ち入れば、法律が持ち出されて住居侵入罪(刑法第130条)鉄道営業法違反(第37条)に問われることになる。勝手に人を撮影すれば民事上の損害賠償に発展することもある。

現役時代の小田急20000形「RSE」(写真:しんいちK/PIXTA)

鉄道趣味はあくまで趣味である。趣味などというものは傍からみたらときにばかばかしくもある。本来きっぷは列車に乗るために買うもので、駅は用があるから降りるものであるが、私は使わないきっぷに多くのお金をつぎ込み、用もなく人気もない駅に下車してただ時間を過ごしたことが何度もある。趣味者以外からは理解不能だろう。

しかし、理解不能と思われるだけならともかく、鉄道利用者や事業者を含む他人に趣味で迷惑をかけてはならない。

もちろん、気を付けて行動しても、不特定多数の利用者が行き来する中で自らの趣味的欲望を満たすための行動をとるから、絶対に周囲に迷惑をかけないということは難しいだろう。しかし、自分の行動を意識しておく場合と、ない場合とでは明らかに結果が異なる。

鉄道趣味を温かく見守ってもらえるか、スルーされるか、冷笑されるか、敵視されるか。残念ながらすでに冷笑から敵視のレベルに差し掛かっているケースもあるように思われる。しかし、先人が築き上げてきた歴史ある鉄道趣味を我々の時代で汚すことがあってはならない。せめてスルーくらいでとどめたいものである。

小島 好己 翠光法律事務所弁護士

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こじま よしき / Yoshiki Kojima

1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業。2000年東京弁護士会登録。幼少のころから現在まで鉄道と広島カープに熱狂する毎日を送る。現在、弁護士の本業の傍ら、一般社団法人交通環境整備ネットワーク監事のほか、弁護士、検事、裁判官等で構成する法曹レールファンクラブの企画担当車掌を務める。

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