自殺した28歳ボクサーの父が精神病院と闘う訳 早期退院→病状深刻なのに再入院認めなかった

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退院時の判断を在宅で精神医療を行う医師はどう見るのか。統合失調症の治療に詳しく、在宅ケアに力を入れている高木俊介医師は言う。「この状態のままで退院させるのは、単なる治療放棄です。しっかりした支援体制をつくって退院とするか、なぜ、退院してもよいと判断しているのかをきちんと家族に説明して話し合うべきだ」。

退院後、父親から見て通隆さんの症状は改善するどころか、入院前よりも悪化しているようにみえた。自宅のベランダに出て飛び降りようとし、「死にたい」「俺、死んでる?」と言うなど、退院前にはなかった衝動的な言動をとるようになった。

経営上の理由で再入院できない

通隆さんの状態が最も悪化したのは、退院から5日後の3月1日だ。電話で主治医に相談すると、抗精神病薬を増量するように指示された。退院後はじめての診察は1週間後の予定だったが、すぐにでも病院でみてほしかった父親は2日後に早めてもらった。診察時、通隆さんは呆然とした表情で会話が成立しない状態だった。それを見た主治医は、すぐに抗精神病薬を注射。これは入院時と退院前日に続く3度目の注射だった。

父親は主治医に、通隆さんがベランダから飛び降りようとしたことを伝え、助けを求めようとした。ところが、主治医は突然、ほかのクリニックへの紹介状を書くと言い出した。その後も通隆さんの症状は悪化。退院後2回目の診察では、足が震えて落ち着きを失った通隆さんは、「入院したいです」と主治医に伝えた。すると、主治医は淡々と言い放った。

「再入院はできません。3カ月以内の再入院は病院の経営上の理由で認められていない」

主治医が口にした「経営上の理由」、そして「3カ月」という期間は、何を示すのだろうか。

通隆さんが入院していたのは、急性期の患者を中心に受け入れる「スーパー救急病棟」という種類の病棟だ。精神科病棟の長期入院を抑制するため、2002年に新たに設置された。

6割以上の患者が3カ月以内に自宅退院するなどの条件が課せられる一方、精神科の中で最も高い診療報酬点数をつけられている。病院の収入に当たる入院料(診療報酬)は1日3万円ほどと、一般の精神科病棟の約2倍だ。そのため精神科病院の経営では収益柱になる。この病棟は入院30日以内の期間に、最も高い診療報酬がつく。

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