ワクチンの特許は「独占しないほうがいい」理由 ノーベル経済学賞を受賞した最新分野の考え方

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一方の自由市場主義経済は、自由市場を維持しながら、その恩恵で肥大化する資本家による独占化・寡占化を回避する施策を講じて、自由市場の問題を克服しようとした。これが反独占的なさまざまな法律制定につながる(これはGAFAに対する反トラスト法などで、いまも健在である)。

修正しながらも自由市場経済を生かす、という発想は制度設計や法整備(制度派経済学、経済法学)の系譜に受け継がれる。自由市場のパフォーマンスをより引き出すために、自由放任ではなくよりよくチューニングすべき、という発想である。これにより自由市場のパフォーマンスは維持され、斜陽化した計画経済陣営を一気に抜き去っていった。

その好例はほかならぬ中国経済かもしれない。中国は共産主義の旗を降ろしてはいないが、自由市場を積極的に活用し、いまや世界第2位のGDP規模に躍り出ている。

「市場経済」を駆け足ながらざっくりと概観するならば、このような紆余曲折を経て、私たちがいま「スマートフォンを数万円で買える」幸せを感じられる世界に住むことができているのである。

2020年ノーベル経済学賞を受賞したオークション理論

自由市場経済は本来的にパワフルだが、まだ完全なものではなく、よりよいパフォーマンスを出せるように設計を工夫する余地がある──。

市場の制度設計(マーケットデザイン)は近年でもホットな領域で、オークション理論の功績で高い評価を得たウイリアム・ヴィックリーが1996年に、マッチング理論で高名なアルヴィン・ロスが2012年にノーベル賞を受賞している。

そして2020年の今年、マーケットデザイン分野の現実的応用への多大な功績が評価されポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンがノーベル経済学賞を受賞した。

とくに限られた特殊なリソースを配分する難しい市場において、市場設計をどのように構築すれば皆がより振る舞いやすく効率的な帰結が導き出せるか、といった“超“がつくほどの難解な課題を解決したり(ミルグロムの電波周波帯オークション設計の成果は有名な事例)、また私たちが日常的に接しているインターネット広告のプライシングに応用されるなど、極めて実用的な成果を確実に挙げ続けている分野であり、経済学の中でもとりわけ発展的な先端分野である。

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