ノーベル賞でわかる「勝者の呪い」の回避方法 現実社会にも貢献したスタンフォードの2人

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──誰が勝っても、「勝者の呪い」にかかってしまうのでしょうか。

それはちょっと難しいところなのですが、実は、勝者の呪いにかからないよう、すべての参加者が自分の評価額から割り引いた金額で入札するというのが、理論予測なんです。

石油の採掘権のように入札者がプロで、何度も同じようなオークションを経験している場合は、ある程度適切に割り引いて入札することができる。結果的に勝者の呪いはそこまで起きないといわれています。

ウィルソン氏が何をやったかという話に戻ると、この共通価値の状況下で、各入札者がどのように入札するのが最適な戦略になるのかを求めたということですね。彼は、適切な割引を行わなければ呪われる、逆に言えば、「勝者の呪い」から逃れる方法があることを示したのです。

不動産は「いくらで売れるか」が重要

もう1人の受賞者であるミルグロム氏は、誰にとっても事後的な価値が同じ「共通価値」と、個々の都合や事情によって変わる「私的価値」(プライベート・バリュー)を同時に持つ財、「相互依存価値」(インターディペンデント・バリュー)のオークションを分析しました。

──私的価値と共通価値を同時に持つというのは?

例えば家を買う場合、個々の都合や事情、「ぜひこの街に住みたい」「この建物が気に入った」といった気持ちなど、私的価値による判断が行われるような気がします。

しかし同時に、いくらで転売できるかも非常に気になりませんか? 仕事の都合で引っ越したくなったり、住んでみたら場所が気に入らなかったりした際に、不動産市場においていくらで転売できるか。いわゆる不動産価値には、共通価値の要素があるのです。これが相互依存価値です。

そして、重要なのは、相互依存価値を持つ財においては、自分が落札した場合、 Aさんが落札した場合、 Bさんが落札した場合で得られる価値は違うかもしれないという点です。

ここまでの理論についての話は、授賞理由のもう半分になった現実への貢献、具体的には、アメリカの周波数オークションにもつながっていきます。1993年から制度設計が始まって、1994年から実際にスタートした周波数帯域の免許配分オークションにおける、制度設計の責任者がミルグロム氏とウィルソン氏でした。

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