JR原宿駅建て替え、国立駅再築と何が違うのか 西洋風建物の旧駅舎外観は「可能な限り再現」

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実は国立駅も、当初は曳家による保存を目指し、市議会で3度提案したものの予算が通らず、続いて市と市議会は存置方式(今ある位置に駅舎を置いたまま工事を進める方式)による保存を目指した。ところが、今度は東京都とJR東日本から、中央本線連続立体交差事業に支障が生じるので認められないという回答があった。

「赤い三角屋根」が特徴の旧国立駅舎(筆者撮影)

よってその後JR東日本から提案された、解体再築方式による保存という方式に落ち着いたという経緯がある。国立駅は文化財指定を受けているので、消防法や建築基準法に合わせるための改築は軽微であるが、広い目で見れば国立駅と原宿駅は内容的には近い。

一連の経緯について渋谷区に聞いたところ、国立駅の事例も参考にはしたが、駅舎はJR東日本の所有だったので文化財指定は難しく、指定のための予算確保はしていたが執行はしていないとのことだった。

尖塔や屋根は再現される

ただし結果としては防火対策は施すものの、駅舎のシンボルである尖塔や屋根の形を残してもらえるとのことなので、区長をはじめとする区側の要望は受け入れられたという見解だった。

原宿駅の新駅舎(手前)と旧駅舎(筆者撮影)

筆者も同感だ。原宿駅改良というニュースが出た直後から、旧駅舎は消滅してしまうという情報がひとり歩きを始め、JRはけしからん、渋谷区は何をやっているんだという非難が続出した。しかし現実は違う。国立駅に近い結論に、JR東日本と渋谷区の合意で導かれたというストーリーは、評価すべきではないだろうか。しかも国立駅舎の場合とは異なり、費用負担はJR東日本が主体となる。

JR東日本は原宿駅について、当初は旧駅舎の扱いに言及しなかった。ただし当時の図面を見ると旧駅舎の位置は白紙であり、国立駅で結論が出るまで10年もの歳月を要したことから、対話重視で進めていくという考えは持っていたと思われる。これに対して渋谷区は当初から旧駅舎の保存を働きかけたが、対決姿勢にはならず、勉強会を開くなどして歩み寄りの道を探った。

まだ旧駅舎の建て替えが完了していないので断定は避けるが、双方ともに国立駅の事例を参考にして、より良い落とし所を探っていたことがうかがえる。いずれにしても、国立駅は守られたが原宿駅は壊されるという表現はふさわしくない。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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