角川春樹が激白「今の映画は冒険をしていない」 最後の監督作「みをつくし料理帖」にかける思い

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――角川映画なんて冒険の塊でしたからね。

安全パイだけを取りたがっている。そういうのはクリエーティブとは言えないわけですよね。

角川春樹/かどかわはるき 1942年富山県生まれ。現・角川春樹事務所社長。出版業のかたわら1976年『犬神家の一族』で映画界に進出。製作作品は『人間の証明』(1977年)、『復活の日』(1980年)、『探偵物語』(1983年)、『Wの悲劇』(1984年)、『ぼくらの七日間戦争』(1988年)、『男たちの大和/YAMATO』(2005年)など総計70作品を超える。監督としても1982年の公開作『汚れた英雄』を皮切りに、『愛情物語』(1984年)や『天と地と』(1990年)などを手掛け、本作は8作目の監督作品となる  (撮影:風間仁一郎)

――製作委員会についてはどうお考えですか。 

もともと製作委員会方式は、私が監督した『天と地と』から始まっているんですよ。今回の映画も製作委員会があって、そこでは活発に意見が出て、それぞれの企業が取り組んでくれている一番いい形での製作委員会なんですが、下手をすると、演出にまで口を出してくることもあります。

キャスティングもしかり、仕上げもしかりということが出てくると、クリエーティブな作品づくりができなくなるんですね。製作委員会によって逆に手足を縛られるような形になることが多いのですが、その点で今回はいい形になった。

例えば今回はトーハン、日販、楽天ブックスネットワークと、製作委員会に取次3社が参加してます。そこがライバル意識を持って出資をし、なおかつお互いに負けたくないという気持ちで動いてくれます。

ほかにもレンタルビデオなどを展開しているゲオとTSUTAYAが参加してくれています。こちらもライバルですよね。ゲオがこれだけやるなら、こちらも負けられないと。これはすごいですよ。

競争原理がうまく働いた製作委員会となっていて。これもまたマジックじゃないかと思っていますね。とにかくライバル企業同士が競う感じなんです。そしてその人たちが初号試写でこの映画を観て、これはいいとみんな納得してくれている。そして製作委員会でさらに活発な意見が出てくるんですよ。否定的な意見ではなくてね。

出版社みんなで盛り上げていく形にした

――角川監督は、「みをつくし料理帖」の書籍が出た際も、ご自身でゲラを持って、書店に営業されていたと聞きました。今回の製作委員会を立ち上げるうえでも、やはり企業をご自身でまわられたのでしょうか。

今回も、映画公開にあわせて髙田郁さんのフェアをやっているんですが、それは実は髙田さんの本を出しているすべての出版社に参加してもらっています。全社を挙げて、髙田郁さんのフェアをやろうと話をしました。

――かつて角川映画で行われていた著者フェアは、角川文庫を売るために行われていたと思うのですが、今回はそれを出版社全体に広げたということですね。

今はそういう時代で、出版社はライバル同士ではなくなっている。ライバル企業ではなく、みんなで盛り上げていこうということですね。

――でもそれができるのは、やはり真ん中に角川さんという柱があるからこそですよね。

良くも悪くも、最年長なんですよね。長老扱いされるのはちょっと迷惑なんですが(笑)。

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