他人同士の共同生活「沈没家族」で育った子の今 型破りな家族で育った人が大人になり思うこと

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1996年撮影。「沈没家族」の中心人物だった加納穂子さん(当時24歳)と、息子の土さん(同2歳)(写真提供:©おじゃりやれフィルム)

――だから、みんな惹きつけられるんですね。楽しそうだから。いまは「子育てって大変」と感じている人が多いので、うらやましく感じるんでしょうか。

「沈没家族」ができたのは、もともとは穂子さんと僕がサバイブするため、子どもの面倒をみてくれる人が必要だったから、というのもあったと思うけれど、同時にやっぱり「自分が楽しいことも大事だよ」っていうところも、すごくあったと思うんです。家の中で飲める相手がいっぱいいるとか、いろんな人と交流できるとか、「自分が楽しいからやった」というのも、すごく大きい。

それはやっぱり穂子さんのすごいところだと思うし、その考え方は僕もすごくリスペクトできる。自分がつらくならない、自分が楽しくあるために、ほかの人に助けを求めて来てもらって、「沈没家族」みたいな形に行き着く。そういう判断をしてくれたことに、僕は愛情を感じるというか、感謝していますね。

――子どもの頃、親が「子どものため」といって何かを我慢していたのがつらかった、という声は、取材でよく聞きます。親が自分の幸せを我慢しないことは、子どもにとってもとても大事ですね。でも映画の中で、穂子さんと「沈没家族」を離れたときの土さんは、すごくつらそうでした。親のハッピーと、子どものハッピーが、一致しないときもありますよね。

そうですね。あのあと僕らは、穂子さんの直感に従って八丈島へ行ったんですけれど、最初はつらかったし、その選択をした彼女に対する恨みみたいな感情は、やっぱりありました。でも1年くらいしたら友人もいっぱいできて、楽しくなったので、いまから思えば全然受け入れられるんですけれど。

それに、島の中でも穂子さんはすごく生活を楽しんでいたので。こんなに笑っている人がいたら、自分も慣れてくるというか。そもそも島での生活が破天荒だったので、落ち込んでいる暇もなかった(笑)。いまでは僕の故郷は八丈だと思っているので、「そんなときもあったな」という感じです。

――もしあのまま沈没家族にとどまっていたら、穂子さんが笑顔でいられなくなってしまって、土さんはもっとつらかったかもしれません。穂子さんも「沈没家族」を出るときは悩んだのでしょうね。

穂子さんも、(八丈島へ行くことに)不安な気持ちもすごくあったみたいです。島での生活や、人との関係も、たぶん僕が想像していないところでも、大変なことはあっただろうし。でもやっぱり、不安なこともあるけれど楽しいことをしている、というのは穂子さんの変わらないところだと思いますね。

血縁以外の子育ては、そんなに特別なことじゃない

――自分が「沈没家族」で育ったことを、どう感じていますか?

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「沈没家族」で育ったことと、いまの自分を、そんなに結び付けすぎていないんです。めぐ(沈没家族で育った別の女性)と話したとき「いいな」と思ったんですけれど、めぐと僕もお互い、「沈没家族で育ったから、自分たちはこうなっている」というのは、あんまり思っていない。子どもの頃は子どもの頃で、いまの自分はいまの自分だよね、という感じです。だから映画も、「『沈没家族』は素晴らしい!」とか言っているつもりはあまりなくて、ものすごく緩やかに肯定しているというか。押し付けるつもりはないので。

ただ、「血縁の家族以外で子どもを育てることって、そんなに特別なことじゃないよ」というのは、やっぱり言いたいですね。「ふつう」と違う家族で育つ子どもや、血縁以外で育つ子どもがかわいそう、ということは全然ないので。そういうのは、僕だから言えることなんだろうな、と思いますね。

大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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