コロナ克服のトランプ大統領が受けた「大打撃」 強い大統領アピールも「重要カード」を失ったか

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それ以上に大きな問題は、トランプ大統領の側近や共和党議員の間に、感染が拡大しているという事実だ。感染拡大のきっかけは、複数指摘されている。トランプ大統領は、9月27日の戦没兵遺族との式典の際に感染した可能性を示唆したが、同26日にホワイトハウスのローズガーデンで開かれた、大統領が故ギンズバーグ最高裁判事の後任に指名した、エイミー・バレット氏の「お披露目イベント説」も有力だ。

また、皮肉にもこれがバレット候補の上院における最高裁判事承認の妨げになる可能性が出てきた。承認にあたっての公聴会は、上院の司法委員会で開かれることになるが、現時点でその委員となっている共和党議員2名がコロナ陽性となっており、早期に公聴会に参加できなくなってしまったからだ。

彼らが欠席のままで公聴会を開くことはできる。だが、その場合には民主党議員の反対によって、司法委員会で承認されないリスクが高まる。後任判事の承認を急ぐことは中道派の反発を呼ぶ恐れも高い。もし今回のことで大統領選までの承認が出来なくなった場合には、キリスト教保守派の失望を呼び、支持が離れることも十分にあり得る。

景気支援策の成立は、新政権の発足以降か

そして何よりも市場関係者が気にかけるべきは、経済支援策第4弾の行方だ。民主党が多数を握る下院は、5月に早々と3.5兆ドルの支援策、「ヒーローズ」法案を成立させていたが、今回2.2兆ドルに規模に縮小した法案を承認、選挙前の休会に入った。

一方、共和党が多数となる上院では5000~7000億ドルとされる支援策が提出されたが、9月10日には審議入りの動議を民主党の反対で阻止された。上院は議員の間に新型コロナへの感染が広がったことを受け、21日まで休会に入ることを明らかにしている。

最高裁判事の承認プロセスはこの間も進めるとのことだが、一方で景気支援策の審議は難しそうだ。もちろん、採決のためにはいつでも議員をワシントンDCに呼び戻すことはできる。トランプ大統領は、追加景気対策について「大統領選後まで停止する」と言い切った後に、再度民主党に歩み寄りを見せている。

民主党は新型コロナ対策に積極的に取り組んでおり、大統領をはじめとした共和党の対策は不十分だったことを盛んにアピールしている。ペロシ下院議長は、スティーブン・ムニューシン財務長官がトランプ大統領による審議の打ち切り宣言後に持ち出した1人あたり1200ドルの個人給付や、航空会社に対する救済金の支払いに絞った、個別の支援策の成立を拒否。あくまでも包括的な支援策の合意が前提だと突っぱねた。

かたや身内である上院共和党も、マコネル上院院内総務が大規模な財政支出を伴う支援策を明確に否定、共和党の上院議員の多くは、これまでに支援策はほぼ十分に行われているとの認識を持っているとの見解を示している。

選挙前に大規模な支援策が成立する可能性はほぼゼロになり、結局は新政権が始動する来年1月を待つことになりそうだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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