理研だけが悪いのか、科学政策の根深い問題 STAP騒動で浮かび上がった研究者たちの不都合な真実

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昨今、学術論文の評価が学会誌ではなく、『ネイチャー』など商業誌の掲載によって決まる点が、問題の核心にある。こうした商業誌は、学者だけでなく一般人も読者に想定しており、インパクトのあるテーマや鮮明な画像を要求されることが多いという。また、バイオや電子工学などでは特許申請の関係から秘密主義になりがちで、若いうちに科学的な議論の訓練を受けられない例も増えている。

論文掲載に躍起になる背景には、研究資金の配分という問題もある。科学技術が国家戦略として取り上げられたのは、1996年の「科学技術基本計画」が最初だ。5年ごとに見直されて現在は第4次の途上にある。

この間、大学や公的研究機関の独立行政法人化があり、研究の自由度が上がった反面、研究者から「総予算が縮減される中、特定の研究に資金が重点投下される一方、研究者の自由な研究への資金配分が減少している」との声も複数聞かれる。シニアの研究室主宰者は、自力で日本学術振興会などから公的研究費を調達しなければならず、目立った実績(論文数)を挙げる必要に迫られる。

ポスドクの過酷さ

博士号を取得した若手研究者、ポストドクター(ポスドク)も過酷な状況に置かれている。94~2000年に文部科学省が推進した、いわゆる「ポスドク1万人計画」は、もともと学術研究の強化のため助教授の多くを教授に格上げし、実験を手伝う助手が極端に減少したことが背景にあった。

このため、博士号を持つ研究者の増員が必要となった。当時、国立大学のポスドクの正規ポストは3000。優秀なポスドクがしのぎを削り、あぶれた7000人は企業や、小中学校の教員としての受け入れを想定していた。

ところがその目算は外れ、企業での受け入れは思うように進まず、教育機関での受け入れはいまだにゼロという。現在、ポスドクの数は1.8万人といわれ、生命科学系のポスドクの約4割が年収400万円以下(11年、日本学術会議調べ)。5年程度の任期内に成果を出さなければ次の受け入れ先が決まらないため、プレッシャーに苦しむポスドクは多い。

一方、若手育成支援で潤沢な資金が与えられる者もいる。小保方氏はその恵まれたコースに乗った。博士課程在学中、日本学術振興会の特別研究員に選ばれ、08年からの3年間に科研費と毎月の研究奨励金を受け取った。同期間に奨励費として年間60万円の研究費も支給され、3年間の合計額は推定1350万円。08年に特別研究員として選ばれた研究者(工学系)は127人で、小保方氏はその一人。金額や人数など妥当性に問題もあるが、有望な若手とみて小保方氏を理研が採用したのも無理はない。

STAP騒動は現在の科学の研究環境に咲いたあだ花だ。とはいえ、この問題を理研や個人の責任に帰し、研究倫理の問題だけに矮小化してはならない。研究費の配分や研究者育成など、科学技術政策の抜本的な見直しの好機ととらえるべきだ。

(撮影:ヒラオカスタジオ)

週刊東洋経済2014年5月17日号〈5月12日発売〉の核心リポート)

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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