失敗か成功か、8年弱のアベノミクスで得た教訓 ポスト安倍政権が踏まえるべき5つのグラフ

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ただ、安倍政権下では、成長率が目標に達しなかったというだけで、実際の景気は決して悪かったわけではなかった。若年人口の減少を背景とした人手不足がキーワードとなり、企業が非正規雇用から正規雇用への転換を含めて採用活動を積極化したのは、新型コロナ禍以前の記憶として鮮明だ。完全失業率の推移では、アベノミクスの成果想定を上回り、歴史的な低水準となっている。

景気はそれなりに良く、ほぼ完全雇用の状態が続いた。であれば、賃金上昇が進み、それにともなって物価上昇率も高まっていくというのが経済のセオリーだ。だが一部の非正規雇用を除いて賃金の伸びは限定的で、物価上昇率もさほど高まらなかった。

このことは、アベノミクスの戦略としては失敗と捉えられる。なぜなら、アベノミクスでは、大胆な金融政策によってデフレは払拭できると考えられており、日銀の黒田東彦総裁は異次元緩和の開始時に「物価上昇率2%の目標を、2年程度を念頭にできるだけ早期に実現する」と豪語していた。それによって、実質金利(名目長期金利-物価上昇率)が低下し、企業の設備投資が拡大して一段と経済が拡大するというのが、アベノミクスの理屈だった。

実際の物価上昇率は図3のとおりだ。

この図で重要なのは、アベノミクスの当初想定では、物価上昇率が2%を超える程度まで上がり、それに対応して日銀が金融緩和を正常化(引き締め)していくことによって、名目長期金利も上昇していくと見ていたことだ。しかし、実際には物価上昇率は十分に高まらず、その結果、名目長期金利も、2%の物価上昇率目標を達成すべく日銀が金融緩和をさらに強化することによってゼロ%前後に釘付けされることになった。

「経済成長」失敗が国債利払い費を抑えた

繰り返しになるが、このことはアベノミクスにとって「失敗」になるのだが、実は「国債費の抑制という裏側の効果としてはメリットが大きい」ことも強く認識されている。名目長期金利は、政府が発行する国債の利払いの大小に直結する。アベノミクスの当初想定では、経済の拡大とともに税収が増える反面、名目長期金利も上昇するため、利払い費を含めた国債費も増えるという絵を描いていた。しかし、実際にはそうはならず、国債費の横ばいが続いている。

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