難病のホーキング博士が見出した「幸福の指標」 心や思考が自由である限り、人間に限界はない

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死ぬことは恐れてはいないが、
死に急ぐつもりはない。
とにかく、
やりたいことは
まだたくさんある。

(『3分でわかるホーキング』より)

ALSという難病によって、つねに死を意識する状況で生きてきたホーキング博士が「死ぬことを恐れてはいない」と主張できるのは、かなり達観した境地であるように感じます。私だったらそこまでの心境にはなれないだろうというのが正直な感想ですが、1つ思うところはあります。

おそらく人の一生には、「長い・短い」という時間軸の尺度以上に大切なことがあるはずです。もちろん、長生きするに越したことはありませんが、人生のなかでどれだけ充実感を持った一瞬一瞬を積み重ねることができたか、納得できる時間を過ごしてきたか──少なくとも私が自分の人生を振り返るタイミングがきたとき、そのことを自らに問いかけると思います。

幸せかどうか=自分が「満足できたかどうか」

人には、それぞれ「自分はこうありたい」「ここまで達成したい」という理想があります。それに到達したり、限りなく近づけることで、満足や充実感を感じることができます。

しかしながら、自信の欠如から、その本当の理想を追求せず、最初からゴールをより容易なものに設定したり、理想を低く掲げてしまうことはないでしょうか。でも、それが真に目指したいものかどうかについて、自分の心を欺くことはできません。

つまるところ、自分自身が納得できる生き方だったと思える人生が、幸福な人生なのだと思います。周囲の人にどんなに高く評価されようと自分が満足できなければ充実感はなく、逆に周囲の評価がどんなに低くとも自分が納得し、満足できる生き方ならば、それは「幸せである」と言えるのではないでしょうか。

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ホーキング博士は、自身の人生に「宇宙の仕組みの解明」という、とてつもなく高いゴールを掲げました。でも、それは誰にうそをつくこともない、博士が心から望んだゴールだったのだと思います。そのゴールのために、自分ができることは何か、克服しなければならないことは何かを思索し、自らに対する評価指標を持って人生を歩んでいたのでしょう。

自分が何をしたいか、何をすることで自分が本当に納得できるのか。自分にうそをつくことなく、突き詰めて考え抜き、その「何か」をつねに明確に認識して生きていくことがなによりも大切なのです。

若田 光一 宇宙飛行士、博士(工学)
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