移動スーパー「とくし丸」が脚光を浴びる理由 外出自粛で増える「買い物困難者」を救えるのか

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とくし丸の新宮社長は、「スーパーはとくし丸と提携することで時間と精度を買っている」と説明する。時間とは事業を確立するまでに要する時間、精度とは売れる商品をきちんと並べる正確性を指す。

2020年6月にとくし丸の社長に就任した新宮歩氏。2003年にオイシックス(当時)に入社し、現在はオイシックス・ラ・大地の執行役員も務める(写真:とくし丸)

とくし丸では本部やスーパーの担当者、販売パートナーが閲覧できる掲示板があり、「とくし丸で買い物をする高齢者には土用の丑の日のうなぎはほぼ国産品しか売れない」といったデータが共有されている。こうしたデータを活用することで、開始当初から的確な品ぞろえが可能になる。

また、スーパーがノウハウなしに自前で販売パートナーの指導を行うには、高い能力を持つ人材を充てる必要があるが、そのような人材を確保できるとは限らない。その点については、スーパーが失敗なく展開できるように「(とくし丸の仕組みを)チューニングしている」(新宮社長)。なお、とくし丸と提携したスーパーが契約を解消すると、その後の3年間、類似の移動スーパー事業ができないよう契約上の縛りもかけている。

移動するスーパー

とくし丸の売上高や利益は非公表で、利益はほぼゼロだという。顧客数は概算で8万人程度。新宮社長は「80万人まで広がる」と期待をかける。いなげやの湊氏も「現在の中心顧客は団塊世代だが、(人口の多い)団塊ジュニア世代が70歳になるのが2040年ごろ。あと20~30年は市場が伸び続ける」と予測する。

今後ネットを使える高齢者が増えるにつれてネットスーパーが競合となりうるが、新宮社長は「スーパー側からすると、とくし丸もネットスーパーも、自社の商品を積み込み、客に届けるという点で似ている。とくし丸がネットスーパー業務にも対応できるようになりたい」と、現在のビジネスモデルから仕組みを変えていく構えをみせる。

親会社であるオイシックス・ラ・大地は、とくし丸のビジネスをプラットフォームとして確立させたうえで、オイシックスやオイシックスの出資先の商品や食品をとくし丸や提携スーパーで販売することを検討している。

オイシックスはとくし丸の運行車両数1000台の早期達成を目指しており、5000台まで行けば買い物が困難な利用者はゼロに近付くと見ている。消費者の一層の支持を得るためには、車両台数の増加だけでなく、さらにサービスを高めていく「次の戦略」が必要になりそうだ。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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