移動スーパー「とくし丸」が脚光を浴びる理由 外出自粛で増える「買い物困難者」を救えるのか

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いなげやのとくし丸事業の日販は、2020年1月時点で9.5万円だったが、コロナ後の5月には約12万円まで増加。8月に入ってからも約11万円を維持している。

個人宅での需要だけでなく、買い物が気晴らしになるのではと考える老人ホームからの問い合わせも増えている。いなげやで同事業を担当するグループ事業戦略部の湊公一氏は、「顧客からはとくし丸がないと困る、ずっと続けてほしいという声があがっている」と語る。

とくし丸がスーパーのブランド向上に

スーパーにとっても、とくし丸を通じて新たな発見がある。

世帯人数の少ないシニアに向けて少量の商品を開発する必要性を説く声が業界内では多かった。だが、いなげやによると、スーパーから持ち帰ることができないために大容量品を買わないだけであり、自宅近くで商品を購入できるのなら、1リットルのしょうゆも購入されるという。

こうしたシニア層のニーズは、実店舗での品ぞろえにも生かされている。湊氏は「とくし丸はいなげやのシェアやブランドイメージを上げる手段。とくし丸を通じていなげやを知ってもらい、実店舗を使ってもらいたい」と話す。

では、自前で移動スーパー事業を営む企業はなぜ少ないのか。とくし丸事業でスーパーが得る利益率は3~7%と、営業利益率1%程度が普通のスーパーにとって収益性が高い。

全国スーパーマーケット協会によると、2019年のスーパーの客単価は平日で1884円、土日祝で2148円。これに対し、客数や台数、日販をもとにとくし丸の客単価を計算すると、約2150円になる。スーパー側から見ると、利益率が高いとくし丸事業で、実店舗と重複しない顧客層から実店舗と同程度の客単価を獲得できていることになる。

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