発想、判断回路も異質な「宇宙人」宰相の腹は…

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発想、判断回路も異質な「宇宙人」宰相の腹は…

塩田潮

 1月29日、鳩山首相が施政方針演説を行った。
 冒頭、「いのちを守りたい」と語りかけ、「いのち」という言葉を24回も口にした。施政方針演説は年初、通常国会で向こう1年の内閣の基本方針を内外に示すために行われる。その前に去年の10月26日、所信表明演説を済ませている。こちらは新登場の首相が自身の考え方を明らかにする演説だ。ここで「友愛」「いのち」「絆」「居場所」「架け橋」など、従来の首相演説にはなかった単語を多用した。今度は「いのち」は施政方針演説の全体を貫くキーワードの役割を担った。

 政権交代までは官僚作成案文をホチキスで留めたような首相演説ばかりだったが、鳩山首相は官僚に頼らず、自身の思想と言葉で綴った。政治家の演説は普通、何を伝えるかという語り手側の意向が最優先だが、「非永田町的」が売りの首相は聞き手側に立った話し方を心がけ、誰もが使う日常語で、率直に本心を語ろうとする。その点に好感を持つ人は多い。
 だが、政権担当4ヵ月余、美辞を連ねるだけで中身が伴っていないという批判は拡大の一途だ。支持率急落は「指導力欠如」が最大の理由だが、ぶれる発言、言い訳と言い逃れ、空疎な決意表明と決定の先送りなど、言葉の軽さも失望と悪評につながっている。

 なぜ言葉が軽いといわれるのか。名門の御曹司で科学者の「宇宙人」は言葉遣い、発想と判断の回路も異質で、一般人の理解を超えているかもしれない。
 議員歴24年なのにプロの政治家としての資質と条件が備わっていない、知恵袋や懐刀の不在で情報過疎の「裸の王様」になっているという指摘もある。いまは危機的状況だが、「宇宙人」は案外、ここは我慢のしどころ、やがて嵐が過ぎ去れば事態は好転すると楽観している可能性もある。
 右往左往という印象が強い首相だが、腹の座り方と長期的視野、複眼思考の有無も、政権の行方を探る隠れたポイントだろう。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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