「びっくりドンキー」新業態はファンを掴めるか カスタマイズできる「ディッシャーズ」新宿店

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1号店、江ノ島店の開業はもともと4月13日に予定していたが、緊急事態宣言により延期。6月1日、15日に相次いでオープンしたものの、ほかの飲食店と同様、新型コロナの影響を大きく受けた。江ノ島店は夏の海水浴客を、新宿住友ビル店は近隣オフィスビルのワーカーを当て込んでオープンしているが、いずれも海水浴場の休止や、リモートワークによって、予想の来店数にはまったく届いていない。

精算用QRカードを機械にかざして支払いを済ませる(筆者撮影)

しかし考えてみれば、必要以上に人と接する必要がない新業態の形態は、この時代のニーズにぴったりと合致している。キッチン内に至るまで機械化・省力化を進めた結果、スタッフ数も新宿の店舗であれば、ランチタイムなら15人ほど必要なところ、5人と3分の1に縮小することができている。

オープンの1年前から北海道にラボを設置し、機械化やオペレーションの検証を徹底して行った結果だそうだ。

最後、料理を運ぶのはスタッフの手で(筆者撮影)

「人材不足で、繁華街になればなるほど人は足りないし時給もどんどん上がる、という状況でしたので、機械化の方向性は必然でした。そこへたまたま今回のコロナが起きた。コロナの状況においても成長しているというか、影響が少ない飲食店はファストフードやテイクアウトの業態ですよね」(庄司氏)

コロナ以前、同社では販売促進策が功を奏し、1月時点では今期8億円の増益が見込まれていたそうだ。しかし4月の売り上げは半減、関東・中部・関西を中心に落ち込みが激しく、客足もなかなか戻らない。

ただ、拠点である北海道や東北地方など、びっくりドンキーの歴史が長い地域については、客足がおよそ9割まで復活しているという。

「人と接しない」「サッと食べてサッと出る」

このようにびっくりドンキーでは知名度の高さと、根強いファンの存在が底力になっていると言える。ディッシャーズの新宿住友ビル店オープンの際、3日間店頭に立った庄司氏は次のように説明する。

「『あっ、びっくりドンキーだ!』という声とともに入店されるお客様が多かった。知っている味という安心感を感じてくださっているのかな、と思います」(庄司氏)

びっくりドンキーを語るうえで外すことができないのが、独自のサプライチェーンである。素材の研究から生産・仕入れ・加工、サービスまでを自社で一貫してコントロールしており、主力メニューのハンバーグはもちろん、コメや野菜も徹底した管理のもと、仕入れや加工が行われている。

この安全と安心に支えられた商品品質が最も大きな強みであり、創業から貫かれてきた方針を示すものだ。ただし庄司氏によると、やはり行き詰まりが見えてきていたという。

「50年以上経営していますが、さまざまな競争原理、生活環境の変化を受けて、あるところで出店数が止まってしまい、現在約330店舗。兄(現社長の庄司大氏)と私が入社して10年ですが、そのときの約束の600店舗まで持っていくことができませんでした」(庄司氏)

そこで5年ほど前から、アメリカやイギリスの市場調査を行い、チェーンの動向を徹底的に研究。そこで出た答えと、これまで同社が積み上げてきたサプライチェーンという強みが組み合わさった形が、ディッシャーズというわけだ。コロナにより出店計画も狂ったが、将来的には100店舗を目指すという。

出店の立地により、よりコロナの影響を受けやすくなったのは残念だが、新業態ディッシャーズは「人と接しない」「サッと食べてサッと出る」という新しい生活様式との相性がよい。新しい形のファストカジュアルとして、今後、市場が広がっていくのではないだろうか。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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