享年17歳の闘病ブログが10年後の今も残る意味 七回忌で更新を止めたネット墓に見えること

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ブログもSNSも運営元がサービスを終了したら、そこにあるサイトは一網打尽で消滅する。また、最近は長らく更新のないページを抹消ないし停止する方針を打ち出すサービスが世界的に増えている。

2019年11月にはアメリカ・Twitter社が半年以上ログインや更新のないアカウントを抹消すると発表し、猛反発を食らって即座に撤回するという騒動があった。セキュリティの観点から放置アカウントに手を打とうという動きは今後も増えていくだろう。故人のページややむをえず更新を停止しているページにとっては厳しい時代になってきているのかもしれない。

それでも、さまざまな幸運が重なって今後もずっと存続するのなら、「ワイルズの闘病記」はワイルズさんを知る誰かがいる限り墓であり続けるだろうし、これからも新たな読者を獲得していくだろう。母ワイルズさんが健在な限り、管理も問題ないはずだ。

日本の祭祀文化には、故人の法要を取りやめる「弔い上げ」という区切りがある。三十三回忌(32年)や五十回忌(49年)で弔い上げする例が多かったが、最近は十七回忌(死後16年)を区切りとすることも珍しくなくなってきている。厳密な規定はなく、故人を知る人がいなくなったら弔い上げするのが一般的だ。

「ワイルズの闘病記」(文芸社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトの電子版購入ページにジャンプします

ネット上の墓も、故人を知り、追悼する人がいなくなるまで役割を持ち続けるのではないかと思う。それでいて、無料サービスのスペースに置かれている以上、不安定なのは仕方がない。

「ずっと存在してほしい」けれど「消滅するならば、静かに諦めます」という母ワイルズさんのスタンスは、愛情と合理性がとてもバランスが取れていると思った。

当然そのバランス感覚には、ワイルズさんのブログをすでに書籍化できている事実が根底にある。

「息子の置き土産は私たちにとって宝物です。ブログ運営元に依頼して製本化しました。やはり紙媒体として残すことが確かなことで安心できると思ったからです」

故人のサイトとの向き合い方

故人のサイトとは、どう向き合うのが正解なのか?

もしかしたら、「後ろめたさ」に敏感になって向き合うのが1つの方法かもしれない。「ワイルズの闘病記」には後ろめたさがない。ワイルズさんはブログが残って多くの人に読まれることを望んでいたし、両親もその遺志を継いでいる。読者としてみても、アクセスして読み込むことに後ろめたさはいらないと思う。ただ、コメントを書き込む場合は別の判断が必要になるだろう。

故人のサイトだから対話できないかといえば、そんなことはない。当時のままの筆者がそこに存在している。自分のいない未来に対して声を上げているなら、耳を傾けてみるのは後ろめたい行為ではないはずだ。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。

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