享年17歳の闘病ブログが10年後の今も残る意味 七回忌で更新を止めたネット墓に見えること

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そこからワイルズさんは、残された人生に悔いを残さない生き方に注力するようになった。できる限り外泊できるように医師に頼み込み、家族と旅行に出かけ、友人たちと過ごし、最期を自宅で迎えるために準備を進めた。自分の死生観をブログにたびたびアップし、両親とも共有するように動いたのも、悔いを残さない一環だったと思われる。

母に「本を出したい。自分がこの世に存在した証を残したい」と伝えたのは死の4日前。

最期の言葉は母に向けた「あの、お葬式は明るく楽しくやってくださいね」だった(書籍版『ワイルズの闘病記』より)。

2010年8月1日。望みどおりに自宅で家族や友人たちに見守られて、17年と半年の生涯を閉じた。

スムーズなバトンタッチの後更新頻度を落とす

ブログを引き継いだのは父ワイルズさんだ。

故人のブログに家族が訃報を載せることはよくあるが、そこでストップするケースは多い。なるべく故人が残した状態を保ちたいという思いからあえて手を付けない例もあれば、「何を書いたらいいのか思いつかない」と故人の一周忌の頃に家族とみられる人物がこぼしていたブログもあった。スキルの問題で継続的な更新ができないというケースも少なくない。

その点において、父ワイルズさんは迷う必要がなかっただろう。ワイルズさんが移植した骨髄の生着に苦しんでいる時期にブログを代筆した経験もあるし、「死ぬことによって生じる状況が怖い」と死後のことを気にかけていた息子の考えも共有している。スムーズにバトンを受け取って、ごく自然な流れで引き継いだように見える。

訃報や葬儀の情報、ブログに書かれなかった息子の横顔など、書くべきことはたくさんあった。

とりわけ重要と思われるのは、ワイルズさんが生前残した手紙だ。「この手紙をあなたが読んでいるとき、私はもうこの世にいないでしょう」で始まる手紙は、友人や恩師に向けて書かれているが、同時に多くの人に読んでもらうことを想定していたようだ。葬儀の際にも参列者に配った。

おそらく、私の死は後続の者達に、何らかの波紋として伝わると思います。私の意志は、級友、そして後輩へと。
語ってください。「死」について、今の教育では全く理解できないまま、多くの子供が成人していってしまいます。
「死」は特別なことでも、恐れるべきことでも、辛いことでも、苦しいことでもない、ということを、教えて欲しいのです。
かつて、笑いながら自分の葬儀を指示し、遺書を書いた子供がいたことを、知って欲しいのです。
(2010年8月8日「ワイルズからの手紙」)

 

2010年8月8日「ワイルズからの手紙」
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