アスリート800人が語る「暴力指導」の衝撃実態 人権NGOが提起したスポーツ界の深刻な問題

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また、親の中にも、指導者の暴力を肯定したり、なかには熱烈に支持したりする人がいる。2013年に大阪市の公立高校のバスケットボール部員が顧問の体罰を苦に自殺した事件では、懲戒免職になった顧問に対して、保護者ら1100人の“有志”が顧問への寛大な処分を求める嘆願書を大阪市教育委員会に提出した。

教育現場の「暴力指導」がなくならないのは、世間にそれを容認する空気があることも大きいだろう。

教育現場なら刑事事件にならない異常

昨年4月29日に兵庫県尼崎市の公立高校バレーボール部で起こった暴力事件では、練習中に顧問が部員を10回以上も平手打ちにした。その部員は失神したが、顧問は適切な救護措置を行わず、練習中のコートの横に放置。監督も、意識が朦朧とした部員を病院に連れて行かなかった。部員は左鼓膜裂傷の重傷と診断された。

仮に高校生が往来で殴打され失神したとすれば、刑事事件に発展した可能性が高い。しかし尼崎市教育委員会は、加害者の顧問を停職73日、監督を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にするにとどまった。

この学校ではこれ以外にも野球部などで暴力・暴言が見られたが、校長と体育科教頭は減給10分の1(1カ月)の懲戒処分になっただけ。加害者の顧問は退職し、校長と体育科教頭は異動となったものの、これほどの問題行為でありながら、だれも訴追されず、刑事処分も受けていない。

結局、日本のスポーツの「暴力体質」の背景には、「暴力」「暴言」「パワハラ」などを否定しきれない日本社会の体質が横たわっているといえるのではないか。

「スポーツ」という概念は明治期に西欧からもたらされたが、ときの政府要人は「たかが遊びではないか」となかなか理解しなかったそうだ。そこで、導入推進派は「スポーツは西欧列強に負けない強い兵隊を作ることに寄与する」という考え方を打ち出し、「富国強兵」の国是に乗ってスポーツ振興を行った。

日本のスポーツが「軍隊」に通じる、規律を重んじ、上下関係に厳しく、ときには鉄拳制裁も辞さない体質になったのは、こうした経緯があるからだ。

戦後、日本が民主主義国家になっても、そうした体質は一掃されなかった。あるベテランの元野球指導者は「軍隊から帰ってきた人がスポーツ指導者に収まってから、むしろ暴力は増えた印象だ」と語る。

この指導者も含め、暴力・暴言を否定し、まっとうな指導をしていた指導者はいつの時代もいた。それでも、全国大会などで実績を上げるのは「暴力・パワハラ指導者」だったため、つねに少数派にとどまってきた。

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