みなが心酔「B・スプリングスティーン」の影響力 ウドー音楽事務所の伝説のツアマネが回顧

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――現場は臨機応変に対応したということですね。

それは初めての経験でした。それとホテルの中でのリクエストとか、いろいろあって大変だったことはありましたけど、ブルース本人はいたって普通の人でした。

地下鉄でつり革を握って原宿に行ってウロウロしたりとか。そういうときも3、4人だけで行動したりと、セレブ感は全然ない。普通のジーパンにステージで着ているようなシャツを着て。残念ながら日本ではブルース・スプリングスティーンは過小評価されてるから、そういう意味では、本当にブルースのことを知っている人しか気付かなかったしね。

――逆に言えば、日本では気楽だったのでは?

アメリカにいたらきっとサインを求められるんでしょうけど、日本なら自由に歩けますよね。オフの日には広島の平和公園に行ったり、マクドナルドに行ったりしていましたからね。

うちが担当したのは、1985年と1997年のツアーの2回。1988年に東京ドームで行われたコンサートは、アムネスティ・インターナショナルの運営だったのでちょっとだけお手伝いしただけでした。

来日のラブコールは送っている

――これだけツアーをやり続けているのに、なぜこんなにも日本公演が少ないんでしょうか。

それにはいくつか理由があります。ひとつは、家族に会うために2週間以上は家を空けないからです。

アメリカなら、プライベートジェットで現地に行って帰ってこられますよね。ただ海外だとそうはいかない。オーストラリアとかニュージーランドなら、1週間くらいの滞在で帰ってくることができるが、日本の場合は、ビジネス的にも経費的にも日本だけというわけにもいかない。

日本を入れるなら、その他のアジアの国、例えば韓国やフィリピンに行く、といったスケジュールを組む必要がある。でもそうなると2週間以上になってしまう。今は違っているかもしれないけど、自分が知っている当時は、2週間以上は旅をしないんだというのをマネジメントから聞いたことがあります。

それと消防法などの関係で、アメリカでできることが日本ではできないといったテクニカルな面もあります。

他にもビジネス的な面もある。1985年の来日公演時は「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」が大ヒットして、日本でも盛り上がったんですが、それ以降、日本では過小評価されてきたように思います。でも、アメリカやヨーロッパでは今でも熱狂的な支持を集めているわけです。だからビジネス的なことを考えると、日本での熱量が、アメリカやヨーロッパと同じくらいだったら、彼らの要求にも対応ができるんですが、そういう難しさもありますね。

――そういう背景があったんですね。

ただラブコールは送っていますよ。8年前にマイアミでコンサートを見たときに、ブルースに「俺が引退する前に日本に来てくれ」とお願いしたんです。そのときはわかったと言ってくれたけど、いまだに来ないなと思って(笑)。でも近い将来、来てくれたらいいと思っています。日本が嫌いなわけじゃなく、物理的な問題があるだけですから。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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