「専業主婦に憧れる女性」がドイツにいない理由 1977年まで「働く自由」なかった既婚女性たち

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ドイツで専業主婦願望の女性が少ないのは、金銭感覚がシビアな男性が多いからだけではありません。ドイツでは「学んだ分野の仕事に就く」のが理想だとされています。

日本では、大学の法学部を出た人が必ずしも法律関係の仕事に進むとは限らず、別分野の仕事に就くこともありますが、ドイツでは法学部を出た人は弁護士などの仕事を目指すのが一般的です。法学部に限らず、専門学校や大学で習った分野をそのまま仕事に生かすべきだという考え方が強いのです。そのため、もし大学で学んでいる女性が「専業主婦になりたい」と言った場合、ドイツでは即「せっかく勉強したのにもったいない」と言われてしまいます。

ドイツで専業主婦になる場合、ドイツ語に堪能でなかったり持病があるなどの「理由」がないと、周囲の人から「なぜ働かないの?」と聞かれてしまいます。

日本でドイツ人男性と結婚したある日本人女性は、夫の都合でドイツに引っ越しましたが、住んでまだ間もないのに、現地で会うドイツ人に「あなたはなぜ働かないの?」と頻繁に聞かれ精神的につらかったと言います。ドイツへの引っ越しの理由は前述通り「夫の仕事の都合」によるものでしたが、そのことを説明しても、「あなたも早くドイツ語を覚えて働けばいいのに」と言われたのだとか。

「女性の生き方」について考えるとき、日本ではよく「欧米のほうが自由に生きられる」と思われがちです。確かに役職がついているポジションであっても時短で働くことが可能であるなど、「働く女性」は日本よりも自由です。しかし「専業主婦という選択肢」はないに等しいので、意外にも日本で言う「女性の多様な生き方」は認められていないのでした。

「専業主婦願望」は決しておかしなことではない

以前、ある食事会で会った20代の日本人女性は「将来は専業主婦になりたい」と話していました。理由を聞くと「専業主婦の母が楽しそうだったので、自分も母のように暮らしたい」と語りました。

一家はかつて海外に住んでいた時期がありましたが、日本に帰国後、母親は海外で習った料理を近所の人などに教えていました。自宅で開いた料理教室に大人も子供も集い楽しかったそうで、女性は「自分も将来は時間を気にすることなくお稽古事をしたり、サロンを開いたりという生活がしたい」とのことでした。

考えてみれば、茶道や着付け、生け花などの伝統的な習い事から、アイシングクッキー作りやアロマセラピーなど現代的なものまで、日本には多岐にわたるお稽古事があります。面白いのは「お稽古事」がどこか「女性」と関連付けられていることです。

現に女性から「今日はお稽古事なんだ」という発言を聞くことはあっても、男性から「お稽古事をしている」という発言はあまり聞きません。そして「お稽古事」が「時間的にも経済的にもゆとりのある専業主婦の生活」と結び付けて考えられていることもまた多いのでした。

そういったことを考えると、冒頭の「ロクに服も買えないドイツの専業主婦」とは違い、「日本の専業主婦」にはどこか優雅なイメージがあり、そのあたりが日本で「専業主婦に憧れる女性がいる」一因の気がします。

ヨーロッパとは違い、日本で女性が「専業主婦に憧れている」と堂々と言えるのは、もしかしたら幸せなことなのかもしれません。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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